日々URALA(ウララ)

タンゴの革命家、ピアソラ生誕100年記念コンサートを開催。バンドネオン奏者、小松亮太さんインタビュー。

19世紀後半に南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスとウルグアイの首都モンテビデオを中心に生まれたといわれる『タンゴ』

2021年は「リベルタンゴ」で知られるアストル・ピアソラの生誕100年にあたります。3月13日(土)、「ハーモニーホールふくい」にて『アストル・ピアソラ 生誕100年記念 小松亮太 五重奏団 コンサート』を開く、世界的バンドネオン奏者小松亮太さんに、バンドネオンとの出会い、伝統的なアルゼンチン・タンゴにクラシックやジャズなどの要素を取り入れ、独特のスタイルを作り上げた鬼才ピアソラについて、タンゴ界のこれから…など、さまざまなお話をうかがいしました。


すべての始まりは、行くあてのなくなったバンドネオンとの出会いから。

小松亮太さん
©Yusuke Takamura

――福井でのコンサートは2002年の「ハーモニーホールふくい」以来とのことですが。

僕もびっくりなんですよ。そんなに来ていなかったんですね。うちは父も母もタンゴ・ミュージシャンで、90年代かな…当時のホール関係者の方が両親に“福井でぜひコンサートを開いて欲しい”と声をかけてくださって、修業時代になりますが、両親のタンゴ・グループの一員として「ハーモニーホールふくい」でコンサートを行なったこともあるので、いろいろご縁を感じています。

――バンドネオンは独学とのことですが、バンドネオンを始めたきっかけを教えてください。

1987年に日本でもタンゴ・ブームというものがありまして、それはブロードウェイからの余波なんですが、中森明菜さんも「タンゴ・ノアール」という曲を歌っていましたよね。時代もバブルだから、うちの両親も仕事のオファーは多くあったんですが、当時の日本はバンドネオン奏者が激減していたときで、仕事はあるのにバンドネオン奏者がいないから引き受けられない。困っていたところ、若手のアコーディオン奏者の方が「僕がやります!」と手を挙げてくれたみたいで、それで両親がバンドネオンを購入し、彼に試しに弾いてもらったところ、ものの5分で「すみませんでした」と…。彼としては何かしら、アコーディオンとバンドネオンの間に互換性があると思っていたんでしょうね。結果、行くあてのなくなったバンドネオンは、我が家に持ち帰ることになったんですよ。

――それは運命的としか言えないですね。プロの奏者になろうと思ったのはいつからですか?

両親ともミュージシャンですから、僕は基本的に鍵っ子だったんです。時間があったんで、バンドネオンを引っ張りだして遊んでいたら、まわりの大人たちが「この楽器を練習している時点で日本一だ!」とか、「この楽器でもしもプロになることがあったら、絶対に仕事がある!」とたきつけるんです。要するにバンドネオン奏者が一人でもいいから、増えてくれないと困る立場だったんですよね。そこからすべてが始まりました。

――アストル・ピアソラという作曲家・バンドネオン奏者がいることを知ったのはいつですか?

日本でアストル・ピアソラというすごい人がいると言い出したのは、うちの両親世代から。つまり今75歳くらいの人たちなんです。ピアソラは生きている間、アルゼンチン以外ではそんなに有名ではなく、亡くなってからクラシックやジャズの人たちが彼の曲を演奏し始めたのをきっかけに、世界的に有名になったんです。昔はタンゴの仕事をしているとピアソラの曲が20分の1くらいの確率で出てくるんです。トラディショナルなタンゴがあって、それを普通にやっているなかで、たまにピアソラの曲があったというだけで、ピアソラだけが特別好きだとか、ピアソラだけを神様と思っているとか、そんな考えは僕にはありませんでした。ただ最近、僕より年下のタンゴ・ミュージシャンの人は、これはアルゼンチン人もそうなってきているんですけど、まずピアソラから入る。初めはクラシックやジャズ、ロックなど、他のジャンルの音楽が好きだった人は、ピアソラを聴くことによってタンゴを知って、ピアソラが好きでバンドネオンを始めるというパターンが多くなってきているんです。これってすごく大問題なんですよ。

――タンゴ=ピアソラ。世の中がそういうふうにタンゴを誤解しているということですか?

そうですね。これは本当に声を大にして、ピアソラ生誕100年記念だからこそむしろ言ってるんですけど、アストル・ピアソラという人が特別すごくて、彼よりも上の世代の人たちが作っていたタンゴが「単なる踊りの伴奏でした」というのは、クラシックやジャズの人たちが勝手に言い始めた嘘なんです。このことによってどれだけのデメリットが起きたことか。ここから先タンゴがどうしていくのか、このへばりついてしまった誤解を解くことからまずは始めないとリセットできない。そんなことを数少ないタンゴ・ミュージシャンとして考えています。

次のページ→世の中の人が聴いているピアソラの80%以上が、クラシックかジャズの人が演奏しているもの。

世の中の人が聴いているピアソラの80%以上が、クラシックかジャズの人が演奏しているもの。

――福井公演の後も、各地でピアソラ生誕100年記念コンサートを開きますが、今年開かれるコンサートはピアソラ、そしてタンゴを正しく理解してもらう意味もあるということですね。

ピアソラがすごい人だっていうのは彼の曲を聴いていたらわかるんですよね。でも、「なんでこういう曲を作ったのか?」あるいは、「なぜこういう曲が生まれたのか?」という作品の裏にある背景や思いは、ピアソラの先輩の曲を聴かないと何にもわからない。革命家というのは確かにかっこいいけれど、ところが革命する前の保守、革命する前の体制側がくだらなかったのかというと、実は全然そうでもないんです。体制側が素晴らしくて、本当にすごい世界で固まっていたからこそピアソラは、「そこをもう少しこうした方がいいんじゃないんですか?」ということをやったわけで、特に1940年代、1950年代という時代は、この両方がバランス良く拮抗していて、そこがおもしろかったんですよ。

――昨年12月にコンピレーション・アルバム『ピアソラの芸術』をリリースしましたが、この作品に込めた想いを教えてください。

世の中の人が聴いているピアソラの80%以上が、クラシックかジャズの人が演奏しているものなんです。事実、ピアソラが書いた楽譜が世の中に出回り始めていて、クラシックの人もジャズの人も、それをもって「これがタンゴですよ」という顔でピアソラの作品を演奏をしているんです。でも、我々タンゴ・ミュージシャンからするとそれはタンゴではないんです。というのは一つからくりがあって、ピアソラは自分の楽団をもっていて、世の中に出回っている楽譜は、彼が身内のために書いた楽譜ばかり。クラシックやジャズの人が使うなんてことはまったく想定しないで書いたものなんです。クラシックやジャズの人たちは僕たちタンゴ・ミュージシャンから見ると、タンゴのバックボーンを何も知らない。それはピアソラの背後にあるものが何なのかを知らないのと同じことで、これは僕の想像ですが「俺たちは楽譜さえあればピアソラを演奏できるんだ。だってピアソラは楽譜を残しているじゃないか」って、そう思っているんじゃないのかな?アストル・ピアソラという人は確かにタンゴに革命を起こした人かもしれないけれど、彼の作る音楽の根っこにはタンゴがあって、それを表現するにはやはり「タンゴ・ミュージシャンが頑張りましょうよ」と、当たり前のことを言っているだけなんですよ。

2020.12.09 ALBUM
『ピアソラの芸術』
SICC-40109/1760円(税込)

――福井公演は五重奏団でのコンサートになりますが、共にステージにあがる演奏家の方々について教えてください。

ヴァイオリンの近藤久美子さんや、コントラバスの田中伸司さんはタンゴの歴史に直接かかわったことのある方です。本場アルゼンチンのタンゴの歴史は140年と言われていて、日本はタンゴの歴史が90年くらいあるんです。その90年の歴史の一番最後にかろうじて立っているのが僕です。18~19歳の時からダンスホールや酒場で好きでもないタンゴの曲をたくさん弾かされて、「なんでこのおじいさんたちはこんな音楽でよろこんでいるんだろう」って当時は思ってました。ところが否応なしにずーっと弾いていると、時間はかかるんですけど意味がわかってくるんですよ。結局、ダンスホールとか酒場みたいなところで、どうしようもなく古い曲を毎日弾いていた人たちが、いつのまにかリズム感とかフィーリングとか、そういうものが身についてきて、ピアソラの楽譜を見たときにそれをどう演奏すればいいのか本当にわかるんですよ。ヴァイオリンの近藤久美子さんは、自分の親よりも年上のおじいちゃんのヴァイオリン奏者から違う違うって毎日しごかれていたそうで、その積み重ねがどれだけの財産になったことか。ピアノの鈴木厚志さんもギターの鬼怒無月さんも素晴らしい演奏家なので、タンゴをよく知る五重奏団だからこそ表現できる、クラシックでもなければジャズでもない“タンゴ”をぜひ楽しんでいただきたいと思います。福井公演では石川県出身のバンドネオン奏者、生水敬一朗さんをゲストに迎えます。彼との共演は久しぶりなのでこちらも楽しみにしています。

『ブエノスアイレスの夏』(2014年)

次のページ→2021年はピアソラをトピックにしながら、タンゴの全体像というのをアピールしていきたい。

2021年はピアソラをトピックにしながら、タンゴの全体像というのをアピールしていきたい。

――福井公演が行なわれる3月13日は、アストル・ピアソラ生誕の2日後です。記念すべき1日が過ごせそうな予感がします。

僕としてはピアソラだけにクローズアップするのではなく、ピアソラをトピックにしながら、タンゴの全体像というのをアピールしていきたいと思っています。タンゴにはクラシックでも、ジャズでも、ロックでもない世界がしっかりあって、そこにがっしりくさびを打ち込んでおかなければタンゴは消えてしまいます。先ほどのピアソラの楽譜の話ではないですが、タンゴはクラシックやジャズの人たちの副次的なレパートリーになってしまっているんです。音楽は自由なのでいろいろ演奏するのはいいんですが、ただスタンダードのタンゴの実態が消えてしまっていることが残念で。

――ピアソラ生誕100年をきっかけに、世の中の人たちにピアソラ以外のタンゴにもしっかり目を向けて欲しいということですか?

別にずっとピアソラだけが好きでもいいんです。ただ、ピアソラの音楽の本当に“芯の部分”を見て感動したいのなら、結局ピアソラより上の世代の人たちのことをよく知っておかなければいけないんです。彼はタンゴに革命を起こしたと言われていますが、正確に言うと第2次革命家なんですよ。タンゴの世界には革命が2度あって1度目はフリオ・デ・カロという作曲家で、ピアソラはフリオ・デ・カロに捧げて「デカリシモ」という曲を作っているんです。タンゴはミュージシャンたちがわざわざ頭で考えて作った音楽であって、民族音楽ではないんです。土着の音楽ではないから、アルゼンチンの人にとっても実はタンゴというのはちょっと距離があるんです。本場なのにブームがきたり、去ったりするんですよ。アルゼンチンのタンゴ・ミュージシャンも地元のお客さんのニーズに合わせて曲を作っている。そんなことずっとやっているから、タンゴのトラディショナルがどういうものなのか分からなくなっているんですよね。

――福井公演の見どころを教えてください。

タンゴっていうと「情熱のタンゴ」っていうイメージがあると思うんですが、そこは1回リセットして、単なる音楽として物理的な面白さを見て欲しいですね。特に今回はタンゴの象徴であるダンスもないし、歌もない。インストゥルメンタルのタンゴをお届けするので「タンゴ・ミュージシャンじゃなければ、こういう演奏できないよね」という部分をたっぷりお見せします。逆に言うとジャズの好きな人はタンゴの中にあるジャズっぽいところ、クラシックが好きな人はタンゴの中にあるクラシックっぽいところを絶対に見つけられると思うので、そこを楽しんで欲しいですね。

――ピアソラの作品がメインのコンサートになるのでしょうか。

それが違っていて「リベルタンゴ」など、もちろんピアソラが作った有名な曲も演奏しますが、実は若かりし頃の彼はアレンジャーでもあって、伝統的なタンゴを自分流によくアレンジしていたんですよ。ピアソラはいきなり自分のオリジナル曲を出して革命を起こしたなんてまったくの嘘で、彼はまず伝統的なタンゴをアレンジすることで革命を起こしたんです。ピアソラが若いころにやっていたことを無視して、有名な曲だけを演奏するのは僕は大反対です。「タンゴに革命を起こした」と言われる前の彼の音楽を知ってから、「リベルタンゴ」を聴けば、この曲が誕生した思いやその背景が徐々に見えてくると思います。




小松亮太
1973年 東京生まれ。
98年、ソニーミュージックよりCDデビューを果たして以来、国内はもとより、カーネギーホールやタンゴの本場ブエノスアイレスなどで、タンゴ界における記念碑的な公演を実現している。アルバムもすでに20枚以上を制作。2021年3月31日(火)にはタンゴの歴史、音楽性、巨匠たちの素顔、時代との関わりなど、「タンゴのすべて」を余すところなく紹介した、タンゴ解説書の決定版『タンゴの真実』を旬報社より発売。
Official Web Site Official Line Facebook Twitter




アストル・ピアソラ 生誕100年記念
小松亮太五重奏団コンサート

©Motoki Uemura

【日程】2021/03/13(土)
【時間】14:45開場 15:30開演
【会場】ハーモニーホールふくい 大ホール
【料金】全席指定/前売6600円、当日7000円
※大学生まで半額、但しハーモニーホールふくいチケットセンターでのみ取り扱いのチケットに限る
【お問い合わせ】ハーモニーホールふくいチケットセンター(0776-38-8282)、エンタメスタイル(076-256-5538)
【チケット発売中】
ハーモニーホールふくいチケットセンター
ローソンチケット(Lコード/51635)
チケットぴあ(Pコード/190-658)
イープラス
エンタメスタイル




日々URALAからのお知らせをLINEで受け取れます!

モバイルバージョンを終了