世界が熱狂した映画をたった一人で。

映画『JUNK HEAD』|世界が熱狂した映画をたった一人で。映画監督 堀貴秀 インタビュー

2021/06/05

月刊ウララ6月号『column collage』より。「世界が熱狂した映画をたった一人で。」




世界が熱狂した映画をたった一人で

「映画制作経験ゼロ」、「たった一人で始動」、「7年間かけて完成」、「本職は塗装業」等々、さまざまなキーワードが羅列され、そのどれもが映画業界では“ありえない”くらいのイメージで光を放ち、映画制作にかける狂気ともいえるような情熱だけが伝わってくる。その情熱は世界を巻き込み、“逆輸入”という形で日本に戻ってきた。北米最大と呼ばれるジャンル映画祭「ファンタジア国際映画祭」最優秀長編アニメーション賞、「ファンタスティック映画祭」新人監督賞受賞、さらには海外の映画祭正式出品が続いた映画『JUNK HEAD』。

メトロ劇場にて堀貴秀監督をインタビュー。

堀貴秀監督

映画監督 堀貴秀(ほりたかひで)/1971年大分県豊後高田市生まれ。高校卒業後、芸術家を目指し上京。2000年にアートワークの仕事をする会社を立ち上げたのち、2009年に短編『JUNK HEAD1』を自主制作開始。クレルモンフェラン国際映画祭にてアニメーション賞受賞。ゆうばりファンタスティック映画祭にて短編部門グランプリ受賞。2017年長編が完成。



自分が納得するものを作るという執念と情熱が世界を動かす


圧巻のエンドロール

映画業界が騒然としたストップモーションアニメーション映画『JUNK HEAD』。

『JUNK HEAD』

圧巻はエンドロールともいえるだろう。脚本から撮影、音楽、キャラクター造形、セリフ等々、1本の映画には数多の人数が関わるのが常だが、そのほとんどに「堀貴秀」の名前が。つまりほぼ一人でこなしてきたのだ。「映画は趣味でもありましたが、自分で作るとは最初思ってもいなかったんです」。ストップモーションで作ってみたらどうなるだろう、『JUNK HEAD』の取り掛かりはそのくらいの気持ちだったそう。そこから“芸術家”の顔が覆いつくしていくことになる。

『JUNK HEAD』

“芸術家”としての矜持

親戚は大工が多いなど、ものづくりの職人たちの中で生まれ育った堀さん。芸術家になろうと芸術系高校に進学し、そういった仕事をしようと上京。その後アートワークを主とする会社を起業し、テーマパークにも納入するなど実績は認められていた。が、それが“芸術家”肌の堀さんにとってのジレンマでもあった。「クライアントがいるということは、クライアントの望むものを作るということ。自分の好きなものを好きなように作りたい」。その情熱を吐き出す先が映画だった。

『JUNK HEAD』

仕事を月に1週間とし、残り3週間を映画制作に充ててきた。自身のアートワークセンスに加え、仕事でも使えるものを使っているために無駄もない。4年の制作期間を経て30分の短編映画『JUNK HEAD』が完成する。「実はこの30分作品を10本作ろうと思っていたんです」。動画サイトにアップしたところ、アメリカ大使館からアメリカの制作会社が堀さんを探しているという話が飛んできたのだ。「実はアップした後に海外からオファーのメールが来ていたんです。でも英語が読めなくてスルーしていました(笑)」。そのオファーとは監督としてのオファー。機会損失かと思いきや、「きっとお断りをしていました。監督といっても製作には多くの人が関わりますし、自分の好きなように作れないですから」。“芸術家”としての矜持。その選択が世界を変えていく。その後出資社の支援を受けたことで会社を止め、アルバイトで塗装の仕事を続けながら短編の続きを残り3年かけて制作し、長編『JUNK HEAD』は誕生した。


一人だからできた世界観

ストップモーションアニメーションではあるが、これまで数多のそれにはない滑らかさがある。何せ1秒12コマほどが通常のところ、24コマという気の遠くなるようなカット数。長編化にあたっては自分たちが演技をしてそれをアニメーションで合わせていったという。「素人なのでどこまでやっていいのかわからなくて24コマで撮影したんです。それに実写映画を作りたかったですから」。セリフもどの国の言葉でもない。もちろん制作を一人で始めたからそうせざるを得ない苦肉の策でもあったが、できあがったものはむしろ幻想的で、どこか遠い世界を想起させ、しかしどこか地球の言葉の響きも持つ、近未来のような世界観を演出している。全体的な世界観、ストーリー、キャラクターデザイン、緻密なほどの設定は、これまで観てきた映画やマンガをベースに、そして自身の人生における価値観が加わって完成した。「生きることとは死ぬことでもあり、食べることでもあります。人間は限りない欲の生き物であり、その結果が永遠の命を得た地上の世界観でもあります」。むしろ人間が作った生命体のほうが生き生きと動いている。その対比は、何をもって人間というのか、人間らしいというのか、を考えさせる。


サーガは始まったばかり

「大変だったのは最初の4年間。本当に受けるのだろうかという不安との闘いでした。でも人って自分を詰め込んで没頭できるものってそれほど多くはないと思うんです。それが自分にとっては映画でした。難しいけれどやりがいがあります。最後までやり切れたのはやっぱり自分に課した挑戦、という部分が大きかったと思います」。いや、これはやり切ったというよりも、スタートラインに立った、という向きがある。実はこの作品は3部作の第1章なのだ。何故こういう世界になったのか、地上と地下世界という縦軸の世界に加え、次からは別の社会という横軸の世界観が描かれる。“堀ワールドJUNKサーガ”は始まったばかり。この先何年もかけて楽しませてくれる映画になりそうだ。

取材・文/本誌編集部(宮田耕輔)


JUNK HEADあらすじ

『JUNK HEAD』
Ⓒ2021 MAGNET/YAMIKEN

人類は遺伝子操作により長寿を得たが、代償として生殖能力を失った。さらに環境汚染、ウィルス感染により、世界は滅亡への道を歩んでいた。新たな命を生み出すカギは、地下で独自に進化した人工生命体マリガンに隠されていた。今、未来を救うために“主人公”が迷宮へと潜入する──!

メトロ劇場にて6月5日より上映
配給:ギャガ
映画『JUNK HEAD』公式HP







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#人物#アート#月刊ウララ

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