【メトロの灯】

人の居場所を見つける映画『君がいる、いた、そんな時。』。迫田公介監督インタビュー|メトロの灯

2021/09/16

“コロナ疲れ”。こんな言葉が出ていますよね。緊急事態宣言が何度も出て、ご飯を食べに行くことも、旅行に行くこともできない状態。段々うっぷんも溜まってきて、SNSでは誹謗中傷の投稿がたくさん。それを見てまたうんざり…、そんな経験はないですか。


そんな人たちが「今観れて良かった」という映画があります。

劇場公開が始まって1年を経過しても上映する映画館が増え続けたという『君がいる、いた、そんな時。』。この福井でも9月25日から10月1日の1週間、メトロ劇場にて公開されます。この作品を製作した迫田公介監督にインタビューをしました。

大学生の時に見た『まぶだち』、『アベックモンマリ』を観て映画監督になろうと決意し、大学卒業後に映画学校『ニューシネマワークショップ』に入学します。そこでの実習作品として脚本・監督を務めた『この窓、むこうがわ』、『の、なかに』が高い評価を得て、長編作品へ、と構想したのが今回の映画でした。「自分の出身校である小学校をイメージして書いたんです。その学校は放送室が出っ張っていて、そこを舞台にしたんです」。


しかし、スムーズに製作が進まず悩んでしまい、鬱病の診断が……。「映画監督になりたい、と思い過ぎていたんです。映画を撮りたい、じゃなかったんです」。それに気付き、多くの人の手助けもあり、6年のブランクを経て製作した中編映画『父の愛人』が、今度は海外、インドやアメリカの映画祭で受賞することになったのです。「やっぱり長編を撮ろう、と再確認しました」。選んだ脚本は、なんと鬱病のきっかけになった脚本。「それでもこの脚本が好きだったんです」。



ハーフというだけでいじめられる子、空回りばかりして、それでも明るく振る舞う子、その二人を温かく見つめる図書館司書の女性。学校生活において中心にはいない、ちょっと外れた位置にいる3人は、それぞれ秘めたる悩みを抱えながら、それでも前を向いて、相手のために行動を起こします。


出身の広島県・呉市に戻り、地元の企業協賛とクラウドファンドだけで資金を調達し、13年ぶりに脚本を映画化させていきます。配給会社も付けず、自身で上映してくれる映画館に営業に向かい、10館での上映が決まりました。ですが、初の劇場公開日は新型コロナの真っ最中。ひっそりと始まり、人知れず終わってしまうはずでした。しかし、観た人の反応が事態を変えていったのです。

この映画で中心となる3人の悩みは、この映画中に解決することはありません。つまり、1時間半で完結する物語というよりも、日常の一部を切り取った風景、という感じです。誰もが一つは悩みを持っています。その悩みは簡単に解決するものではありません。どうしようもないけれど、それでも生きていく。この映画が描いているのはそういう人たち。新型コロナであらゆるものが自粛されているからこそ、同じ悩みを抱える多くの人たちの共感を得たのです。「今観れて良かった」、「エールをもらった」等々。時代とマッチしたこの映画は、徐々に上映館を増やしていき、北海道から沖縄まで32館にまで拡大したのです。


「登場人物はみんな独りぼっちです。でも出会うことで相手のために動きだします。人が人と出会うことでお互いの苦しみをわかりあえば、ゆるやかな優しい世界になるというか。人それぞれに置かれている立場が違いますから、簡単に相手を非難はできません。それぞれがしんどい思いをしています。だから相手を攻撃するのではなく、共感することが、相手を思い合える世界になるし、そうあってほしいとこの脚本を書きました。この作品にもいじめや差別が問題として出てきます。でも彼らはそれに対して戦うのではなく、人のために戦います。そこに人としての美しさがある、と描いていました」。

全国の上映館には足を運んだ迫田さん。それも数日前から現地に入り、宣伝もしながら人と出会いその土地を感じてきました。「この時期ですから皆さん大変です。少しでも経済を回そうと思って活動してきました」。しかしかつて鬱病を患っていただけに、見知らぬ人と出会うという恐怖はいつもぬぐえなかったそうです。「それでも会わなければいけないと、そう思っていました。何故なら出会うことが解決法でもあるし、その先には希望があるからです」。あれだけ行くことに躊躇していた迫田さんも、数日滞在して帰る頃には名残惜しくなるそうです。「帰りたくないと思うことは、その場所が好きになったということであり、それは大切な人ができた、ということなのだと思います」。この映画を通じて迫田さんには多くの“居場所”ができたそうです。



そう、この映画は“居場所の映画”とも呼ばれています。辛くても苦しくても生きていかなければいけないみんなにも大切な人がいる、そういう居場所はあるんだよ、と、伝えてくれているから。2020年には山口県萩市で、この映画を上映するだけの「ibasho映画祭(居場所)」という映画祭が開催されたそうです。「居場所を考える映画、という社会的アプローチがされるとは思っていなかったんですが、皆さんがそう思ってくださったのは純粋にうれしかったです。この映画祭で感じたんですが、映画ってスクリーンに人生が映っているんですが、それを観ている私たちはある意味スクリーンの人生を過ごす“人”と出会う場所なんじゃないかって」。作品に登場する人たちに共感し好きになる。それは大切な人がいる“居場所”なんだと。

迫田さんは学校の先生にも観てほしいと言います。「教師って神聖化されて、逃げ場もない、プレッシャーをいつも感じている仕事だと思うんです。いじめや差別が学校で行なわれていますが、それでも教師側の視点から救われるシーンもあります。是非観てもらいたいと思っています」。『大丈夫』。この映画を観た後、きっとそう思うはずです。優しい世界に変えてくれる1時間半を過ごしてみてはいかがですか。





『君がいる、いた、そんな時。』
公式HP

メトロ劇場にて9月25日~10月1日上映




メトロ劇場
【住所】福井県福井市順化1-2-14
【電話】0776-22-1772
【HP】あり
【SNS】Twitter(メトロ劇場) Twitter(メトロ劇場 支配人)



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