小さな漁村で守られる本物の発酵食、鯖のなれずしと鯖のへしこ。

2021/12/30

昔ながらの漁村風景が残る小浜市田烏地区でつくられている伝統の保存食・鯖のへしことなれずし。発酵尽くしの郷土料理は地元の人たちの手で受け継がれています。

海岸線沿いに冷たい風が吹き、本格的な冬の到来を告げる11月も終わりの頃。美食のまち小浜を代表する発酵食が美味しい旬をむかえます。

小浜市街から東部に位置する内外海地区(うちとみちく)のひとつの集落である田烏は古くから天然の良港に恵まれ、サバやアジなどの巾着網漁で栄えた小さな漁村です。かつて「海の底から湧いてくる」と言われるほどサバが大量に獲れたという歴史もあり、一塩して京都に運んだ『鯖街道』の起点のひとつにもなっています。

海岸線沿いを中心に、食料が不足する冬場用や春から夏にかけて大量に獲れた食材の保存方法として用いられた「ぬか漬け」という発酵技術は今なお受け継がれ、一方で現代の人たちにとっては新しい食の世界としても注目されています。「稲作が広まり、水車で精米した際に出る米ぬかを用いた漬物の応用として、春から夏に大量に獲れた魚を漬けたのが最初でしょうか。本当に先人たちの探求心には驚かされます」と話すのは、この地で代々鯖のへしこ、なれずしを作る『民宿佐助』のご主人、森下佐彦さん。冬場の貴重なたんぱく源として、一年中食べることができる鯖のへしこをつくっていますが、田烏産のへしこは基本的に原料がシンプルで、サバと米ぬか、塩、たかのつめだけを使用して製造。新鮮な国産の生サバの内臓と氷水で血合いを取り、塩漬けし、重石をのせて1週間後に取り出し、汁(すえ)は保管。サバにぬかをまぶし、樽に並べ、塩とぬか、トウガラシを交互にまぶします。樽いっぱいにつめたら押し蓋をし、重石をのせて半年から1年置いたらできあがります。途中、樽の中で発酵が進み、熟成されて完成するのですが、濃厚かつ旨味が強い印象です。

「サバを漬けた後、樽の中の水分がふたの上にのぼり真空状態になって、はじめて乳酸菌は塩を食べて活動します。するとぬかが発酵してくるんですが、乳酸菌は20℃ぐらいから活動を始め 真夏の30℃くらいでピークを迎え、樽の中が乳酸菌でいっぱいになります。するとぬかの味が魚に移っていき、熟成されるんです。だから必ず夏を越さないといけないんです」とは森下さん。

田烏地区は昔ながらの町並みが残り、目の前には若狭の美しい海が広がる風光明媚な地。木桶や重石、藁で編まれた三つ編みなどのへしこづくりに欠かせない道具が所狭しと置かれているへしこ小屋も風情があります。

鯖のへしこの仕込みが行なわれるのは秋から春先にかけて。冬に獲れる脂ののった国産のサバを使ってつくられます。

『民宿 佐助』を営む傍ら鯖のへしこやなれずしを製造する森下佐彦さん。伝統を守り、食文化を伝える伝道師。小学生にへしこづくりも教えています。

森下さんは自宅からほど近い場所にへしこ小屋を持っています。海が望めるその場所はひっそりとしていますが、小屋にある多くの樽の中では常にへしこが活動しており、目には見えない発酵パワーがみなぎっています。

そこでできあがる鯖のへしこは、そのまま味わうのはもちろん、商品として販売も行なっていますが、実はここからさらに進化するのです。へしこのぬかを落とし、塩出してから酢にくぐらせた後、腹に米飯とぬかを詰めてさらに二週間発酵させると「鯖のなれずし」が完成。これがもうひとつの特産品で、二度もの発酵を経てできあがる“究極の発酵食”なのです。2006年には食の世界遺産と呼ばれる「味の箱舟」(スローフード協会国際本部/イタリア)に「地域と人々の生活に結び付きながらも、消えていく恐れのある伝統的料理・食材」の一つに認定され、世界的にも注目を集める逸品になりました。

へしこは、ぬかを落として軽く炙れば、脂がじわりとあふれ、濃厚な塩味とともに魚醤のような鮮烈な旨味が押し寄せてきます。半切れで白ご飯一杯いけてしまうほどの味。一方、サバのなれずしは……。一見、苦手だという人もいるかもしれませんが、そんな人ほど味わえば印象が変わるほど美味。米飯と麹の色を見れば分かる通り、「鮒鮓(ふなずし)」とは全くの別物で独特の臭みはない。発酵しすぎた感じもなく、とてもフレッシュな状態。米飯と麹のキラキラと美しい白色に飴色に近い褐色のサバが実に食欲をそそります。一口味わえば、「まるでチーズよう」とは上手く言ったもので、ちょっと温めたり、軽く焼くことで甘みが増してさらに美味しくなります。へしこよりもあっさりとしていることにも驚くはずです。

食べて、美味しさを伝えることで長く残っていく。まさに今が旬、田烏が誇る珍味を味わい、繋いでいきたいと思わせてくれます。

鯖のなれずし 1本2200円~
鯖のへしこ 1本2800円

へしこは、ぬかを洗い落としてスライス、なれずしは食べやすい大きさに切ってそれぞれ食べるのがおすすめ。通販サイトもあります。

民宿佐助
【住所】福井県小浜市田烏36-47
【電話】0770-54-3407





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#グルメ#嶺南

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