【わたしのレコ麺】

福井市『トックリ軒』の焼きそば

2022/05/26

©川瀬徳太郎

福井への移住をきっかけに麺料理にドはまりしたライター・にしやま(岐阜出身)がレコ“麺”ドする食レポ企画。訪れた先で出会ったローカル麺を歴史あるお店のたたずまいや、人情味あふれる店主とのやりとりとともにつづります。






一度食べて以来、忘れられない焼きそばが福井市東郷にある

わたしがその焼そばと出会ったのは、初めて東郷を訪れた日。ちょうどお昼時に合流した東郷出身の知人が、「まずはここ」と案内してくれたのが『トックリ軒』だった。「オムライス」や「ヒネ足」が名物で、各種メディアに何度も取り上げられている名店らしい。地域密着のローカル食堂という感じのする店の佇まいも、とても私好みだった。

お店は、越前東郷駅から徒歩2分。カタカナの「トックリ」が目をひく看板が目印

ワクワクしながら店に入ると、「いらっしゃい!」と元気なおかみさんに出迎えられた。地元の常連らしき人たちで賑やかな店内。席に着くやいなや、カウンター付近にずらりと貼られた手書きのメニュー札に釘付けになる。教わった名物ももちろん気になるのだが、私の目に飛び込んできたのは「焼そば」の3文字。名物そっちのけで思わず注文してしまったそれには、良い意味で想像を裏切られ、時間を経てもなお記憶が鮮明によみがえってくる。

厨房に立つ2代目店主の石塚さん。石塚さんの父親が昭和34年にお店をはじめた

今回は、そんな忘れられない焼そばを求めて、再び取材にうかがった。「オムライスや足はたくさん取り上げてもらったけど、焼そばの取材はトックリ軒創業以来初めてです」という店主の石塚義照さん。ただ、思った通り、「焼きそばを注文する人はけっこうたくさんいます」とご主人。まさに知る人ぞ知る隠れた逸品だったようだ。





具材には、牛肉、にんじん、キャベツのほか、ハムやかまぼこという普段焼きそばではあまり見かけない意外な顔ぶれがあった
普通の焼きそば麺とは食感が違うような気がして尋ねてみると、麺は中華そばと同じ生麺を茹でて使っているそうだ
「できました」と、できたてアツアツの焼そばを披露してくれたご主人。具材たっぷり、彩り豊かな焼そばから立ちのぼる湯気が食欲をそそる

あの「焼そば」と久しぶりの対面。全体をソース色に染めきっていないのが特徴だ。塩胡椒をしっかりときかせて、そこへ隠し味程度に軽めにソースを加えることで、あっさりと仕上げている。この味付けが、麺や具材の味を引き立たせた、オリジナルな一皿を作り出している。

笑顔が素敵なご夫婦が店を切り盛り。半世紀近くを共に過ごす2人の安定感あるコンビネーションも、愛される理由の一つだと思う

「実は、『塩焼そばですか?』とよく聞かれます。ソースですと答えるとびっくりされますね」と、ご主人。それに付け加えるようにホール担当の奥様、咲子さんは「テーブルにソースが置いてあるから、追加でかけて食べる人もけっこういますよ」と教えてくれた。ただ、「食べてないうちにかける人には『食べてからにしてね』と声をかけるんです」という。これには私も同感。あっさりとしたこの味が魅力だ。まずはそのまま、トックリ軒の焼そばを味わってみてほしい。

トックリ軒
【住所】福井県福井市東郷二ケ町28-31
【電話】0776-41-0237
【時間】11:00〜14:00/17:00〜21:00
【休日】火・水曜
【駐車場】あり
【席数】22席





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