【赤井英和さん】伝説のボクサーを描いた『AKAI』上映【来福!】

2022/12/01

浪速のロッキー伝説開幕

プロ時代21戦19勝。そのうち、デビューから12戦連続KO勝ちという、いまだ破られることのない日本タイ記録を保持。赤井英和さんは役者としての知名度が今は高いですが、1980年代は“浪速のロッキー”という愛称で日本を席巻した不世出のボクサーでした。

その頃の武勇伝は数知れず。愛くるしい今の姿とは想像もできません。「メンチ切ること、喧嘩することは『ファッション』みたいなものでしたから(笑)」。受験しただけで入学も決まっていないのに、“怖い”先輩に連れていかれたボクシング部。ボクシングのイロハも知らないまま雑用係から1年生の夏休みにデビュー試合で初勝利をおさめます。オリンピックを目指していたものの東西冷戦で日本がボイコットするも、近畿大学に進学してプロとして鮮烈なデビューを飾ります。そして再起不能になる最後の闘いへ――。

仲間を、家族を大事にする映画

いまだ色褪せない闘いの記録、赤井英和さんのドキュメンタリー映画『AKAI』は、ある意味現代日本において必要なことが詰まっている感じがします。映像の中にはプロでもありながら実家の仕事を手伝う姿が見えます。  

「小学生のときから家の仕事を手伝うことは当たり前のことでした。野球で打順が回ってきても手伝いの時間になったら抜け出していくことも普通でした」。家族が大事であること、仲間が大事であること。ことあるごとに赤井さんは口にします。ボクシングは一人で闘う、孤独なスポーツ。だからこそ周りの仲間を大事にする。武勇伝はありつつも、そこには優しさがいつもありました。

今回監督を務めたご子息・赤井英五郎さんは、この映画を製作するきっかけをこう伝えています。「コロナで何もかもがストップしたとき、言うなれば明日さえわからない状態の中を生きてきました。もし、今日が最後の日だったら何をしたいだろうと考えたとき、父親にかかわってくれた人たちへの感謝を伝えたい」と。







超豪華で先見性のある裏話  

インパクトのあるポスターは、若き頃の赤井さんの全裸写真。撮影をしたのは篠山紀信さん。そして篠山さんに撮影をお願いしたのが坂東玉三郎さんという超豪華布陣。元々お世話になっている大阪の社長さんと坂東さんが知り合いだったそうで、社長さんが坂東玉三郎さんと赤井さんを引き合わせました。

「自分が美しい間に写真に収めておかないといけない」と、坂東玉三郎さんが篠山さんを紹介したそうです。しかし篠山さんは赤井さんを知りません。「知らない人は撮らない」と撮影を拒否すると、「私が撮ってって言っているんだから撮りなさい!」と半ば強引に撮影に臨んだのだとか。  

「最初はトランクスをはいて撮っていたんです。そうしたら篠山さんが『じゃあトランクス脱いで』って。そこで撮ったのがこの写真なんです。家には前を向いた写真もあるんですよ(笑)」。  

ちなみに、坂東さんはテレビ番組で自身の交友関係の中で赤井さんを紹介したそうです。「この方は将来芸能界に来る方だから」と。そのとき赤井さんは23歳、世界戦も行なっていない大学生だったはず。坂東さんの先見の明、おそるべし……。

さらに、映画の中で『ロッキー』のテーマが使用されています。普通はほかの映画に、それも同じボクシングの映画に使わせることはないのですが、ハリウッド側も『AKAI』になら使用を快諾したそうです。世界で唯一『ロッキー』のあのテーマ曲の使用を許可された映画-あり得ないその話はやはり、赤井さんの人徳のなせる業なのでしょう。

劇場公開前日に知らされた事実

『AKAI』が劇場公開になったのは2022年9月9日。映画となったのを赤井さんが聞いたのは、なんと9月8日。前日だったのです。それまでずっと秘密にしていました。「YouTubeチャンネルを開設したからその動画だとずっと思っていたんですよ」。実はそうしたのは“前科”があるから。かつて英五郎さんがボクシングを始めようと両親に相談したときがありました。もちろん赤井さんは大賛成なのですが、奥様の佳子さんは口外禁止を徹底します。「だってまだジムにも通っていない状態で、相談に来ただけですから」。

しかし数日後、スポーツ新聞にデカデカと「赤井Jr.リオ五輪を目指す」と記事が。嬉しそうに新聞各紙を買いあさった赤井さんに佳子さんは超激怒。「なんで言ったの!あれほど言うなって言ってたのに!」と。「かずくん(佳子さんは赤井さんのことをそう呼んでいます)は一晩中泣いて謝っていました(笑)」。  

つまり、なんでもしゃべってしまうという性格。そんなゴタゴタがありつつも英五郎さんは見事プロボクサーになり、大学で映画を学んでおり、二足の草鞋をはいて現在も活躍しています。「前回は息子だけの話だったから収まったけど、今回は映画。何百人もの人が関わっていることだから、これは絶対言ってはいけないと思いました(笑)」。





そしておしどり夫婦へと

今は赤井さんの日常を撮影した佳子さんのtwitterがバズっていて、その仲睦まじさから「いい夫婦パートナー・オブ・ザ・イヤー2022」に選ばれました。今年で結婚30周年。しかしそのいきさつも破天荒過ぎてこれが映画になるんじゃないかと思うくらいのエピソード。 「昔、かずくんが話している中に、結婚したら親と同居したいとかいうようなことを言っていたので、『それならやろう』と、かずくんの実家に押し掛けたんです。結婚もしていないのに(笑)。ご両親からは『出ていってください』と毎日のように言われたけど、またまたそんなこと言って、って軽く流していたんです。今考えるとおかしいですよね(笑)」。

破天荒な嫁と一瞬を生きる夫。この凸凹さが仲良くいられる秘訣なのでしょうか。「ありがとうとごめんなさいのスピードが大事です(赤井さん)」。「我慢と根性です(佳子さん)」。「ごめんなさいは、許してくれるまで諦めないのがかずくんの特長だと思います。押し掛けるように夫婦になりましたけど、子供ができて守るものができたとき、かずくんの純粋さにも我慢することを覚えました。今ではかずくんさえも守らなきゃ、と思います。だってこんな貴重な生き物、いないでしょ(笑)」。

明日は明るい日と思うこと

ボクシングを諦めたときも、いろんな葛藤があったそうです。15歳から26歳まで、ただひたすらにボクシングだけをやってきた人生。「でも、生きてりゃ何とかなる、という思いで、目の前に訪れたことに取り組んできました。明日って漢字は『明るい日』と書くでしょう」。訪れた自伝の話、訪れた映画の話、訪れた俳優の話、そして訪れたコロナの日々。ただひたすらに一所懸命生きてきた結果が、今の赤井英和という存在を作り上げているのです。

『AKAI』には何一つ“作った赤井英和”はいません。ありのままの赤井英和、何一つ飾らない赤井英和、そして愛され続ける意味がわかる赤井英和がスクリーンに映し出されています。きっと観た後は、もっと赤井さんを知りたくなるはずです。


『AKAI』
メトロ劇場にて上映中~12/9
メトロ劇場 HP





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#人物#インタビュー#エンタメ

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