2023/02/15
学生で起業、なんて言葉も今や普通になったこれからの時代を作っていく、Z世代の福井の学生はどんな風に福井が見えているのでしょう。リレー形式で紹介する「学生の肖像」。
2001年越前市生まれ。鯖江高校卒。福井県立大学経済学部経済学科4年
学びの場所は学校だけじゃない
「何故勉強をするのか、何故この公式を覚えないといけないのか、何故学校の机の上だけが勉強なのか」。学校に行き、机に座って先生の話を聞き、ノートを取って宿題をして……。勉強というとこのようなイメージを大体の人が持ちますが、田川さんはその本質を知りたいと思った側の人。先生にその理由を聞いても明確に答えてはくれませんでした。
「学ぶということは学校だけじゃなくて、社会に飛び出て体を動かすところにもあると思っていました」。ある日目にした“消滅可能都市”のニュース。東京都の豊島区もその一つに名を連ねていたことは驚きでもありました。「東京のど真ん中でさえもなくなるのか、と。それならば少子高齢化が進んでいる中で自分の街はどうなのかと考えても、関心を持っている同世代がいないことに驚きと違和感を覚えていました」。
小さい頃から近所の大人と関わることも多く、学校では学べないことを見つけて参加してみたいと、学校に貼ってあったチラシを見て大野市の観光プロデュースコンテストに参加し、それがきっかけで地域の方々とも繋がっていきました。同時に住んでいる鯖江市でも積極的に参画し、多くのことを学んでいきます。
「どんなにすばらしいプレゼンを作るより、小さくてもいいから自分で作って動かしてみることが大事なんだと。そういえば生徒会長をやっていたときに学校祭も自分たちの考えで変えていったことを思い出しました。これまではまちづくりというと、市長の号令だったり議員さんが上で決めたことをやる、というイメージでしたが、そうじゃない、一人ひとりの活動が積み重なってできているものだと理解しました」。
地元でやりたいことはあるし、経済的な視点を学びたい、地域の産業や財政から福井を学びたい、そうした理由で福井県立大学経済学部に進学を決めます。
小原涼さんとの出会いから『BEAU』へ
田川さんにとって大きく歯車が動き出すのは、“高校生起業家”として活動を始めていた、同じ年齢の小原涼さんとの出会いがありました。福井の教育を考えるイベントで初めて出会った二人。性格は違えどこれまで同世代には話せなかったさまざまなことを話し合い、田川さんが今後やっていきたいとおぼろげに思っていたことがリンクし、『BEAU』に参画をします。
ただ、この時点で初期メンバーはほぼ高校を卒業し、県外に行ってしまった状況でした。そこで半年後、2020年1月に向けて企画を準備するために動き出します。様々な人と出会い、話をして、必要だと感じたのが“高校生がこの地でしか出来ない学びや経験ができるかということ”。つまり、高校生と社会を結び付けてプログラムを組み、実践していく取り組みを始めることとなりました。
内容は、3カ月興味のある分野に企業と一緒に、その分野で自分たちがやりたいことを実践的に学んでいくというもの。企業側が高校生に何かをさせるのではなく、参加したい生徒たちが自分自身で考え、聞きたい人に話を直接聞いたり、調べたり、現場で実践したりしていき、その分野の中で何を学んだかを3カ月後に発表するプログラムでしたが、第1回目に集まった人数は7名。さらに新型コロナで発表会もオンライン、第2回目のプログラムを中止せざるを得なくなります。
対面式を考えていたのでオンラインでする意味はあるのかと迷いながらも、その間に学校は休校になり、オンラインが当たり前になり始めた頃でもあり、オンライン形式にかじを切ることに。そうすると7人だった参加者は33人に、その次は72人、そして128人と、倍増していったのでした。それも県内だけではなく全国から参加者が集まったのです。
複雑な社会の中で教育を考える
学ぶことは学校だけではない、ということを確実に形にして実践し続ける『BEAU LABO Online』。この取り組みに対いて毎週考え、毎週自分の中をブラッシュアップしていきます。「対象は高校生なのですが、続けていくと感じるのは子どもだ大人だという年齢の壁を取り払って、みんなが思考して探求して生活できる人間をどう増やしていくか、ということになっていくと思います。そういう風にいつでも学べるラボラトリーが地域のいたるところにできていくと、何かをしたいときに誰かに会えるし、話を聞けるし、つながれると思うんです。そうしてつながっていくといろんな世代間のハードルが下がって、やりたいことが生まれたらすぐに行動に移すことができる社会になっていきます」。
『BEAU LABO Online』は地域社会に持続的な学習環境を作ることで、一人ひとりが興味のあることから地域を知り、企業を知り、アイデアとコミュニティが生まれていきます。地域の持つ人的資源、技術的資源をフル活用する。それが『BEAU LABO Online』の目指すところでもあります。「教育が地域の中でインフラとして作られていかないと、産業もなくなり、『何もない』と嘆き、街がしりすぼみになってしまうんです。さらに現代社会はかなり複雑になってきていますから、教育もパターン化したものを当てはめるよりも、一人ひとりに最適化していく環境を整備していくのがいいのかな、と思っています」。
自分にも他人にも“白く”あり続ける
田川さんは自分よりもまず相手を考えて生きてきました。その延長線上に今の活動があります。そのために必要な学びとして大学で経済学を選択し、現代社会における課題も見えてきます。資本主義の効率化がもてはやされ台頭していくと、日本が持っている歴史や風土、文化、そして人のつながりが淘汰されてきています。こういった文化的な社会事業は大事だと思っていても経済的に難しい部分もあります。「それは教育も同じこと。なくなったらまずいとわかっていても動けない。だから資本主義の良い部分を上手く切り取り活用しながら文化を作っていきたいとも考えています」。
自分の中で腹落ちしたことがあったそうです。京都のお寺の住職と話したときのことでした。他者と自分に境界もなく、それはつまり自我もない、ということ。自分を捉えた時点でそれは過去に囚われているのと同じ、つまり自分だ、他人だと捉えることなく、自分が本当に大事なものをやればいい、と。「他人のためは自分のためでもあるわけです。だから悪いことをすれば自分のためにも他人のためにも悪い、ということです。常に正しいことを考えながら生きていきたいし、“白い心”を持った人とこれからも付き合っていきたいと思います」。
日々URALAからのお知らせをLINEで受け取れます!
2024/10/01
2024/09/01
2024/06/01