【学生の肖像】Z世代の福井の学生はどんな風に福井が見えているのでしょう。|vol.9 磯野絵里さん

2023/09/27

学生で起業、なんて言葉も今や普通になったこれからの時代を作っていく、Z世代の福井の学生はどんな風に福井が見えているのでしょう。リレー形式で紹介する「学生の肖像」。




vol.9 磯野いその絵里えりさん

2000年1月21日新潟県糸魚川市生まれ。高田高校卒。福井大学医学部5年生。シェアハウス・ゲストハウス『このまん間』を運営









情報リテラシーの授業を経て

21世紀は世界中が混沌として、毎日のように不安を覚えるニュースが飛び込んできます。小学校の授業で「情報リテラシー」について学ぶことがあり、人はそれぞれ価値観を持っていて、その価値観の下で発信をしているから、一方的な情報は鵜呑みにはできない、そう考えることも多かったのです。
「覚えているのはある風刺画でした。刃物を持って追いかけている絵なのですが、その絵を引いてみてみると真逆の状況にあった、という絵でした」。


世界に通用する人間になるには

そんな折、東日本大震災が発生。テレビでは津波や被害状況ばかりがフォーカスされていました。「でも、画面に出ているすべてが東北の現実ではない、被害に遭わなかった地域もあります。そんな思いで見ていました」。

そして高校1年生になる春、今度はISやエボラ出血熱などの海外のニュースが。「そんなにひどい中でなぜ私はこんなに幸せなのだろうと。世界では何が起こっているのか見てみたいと、どうしたらそうした不遇の人たちのそばにいられるかを考え、情報をうのみにできないからジャーナリストは無理だと、医者を目指しました」。


初めての一人暮らしも

初めて親元を離れ、福井で一人暮らしを始めましたが、「帰る時間を言わなくてもいいし、自分の城のようでとても楽しかったです(笑)」。1年生の春の時点で海外旅行もして、さまざまなことに興味も持ち、医者になりたいと思った自分が、狭い世界の中で考えていたんじゃないだろうか、と思うようになっていきます。自分はいったい何がしたいのか、どこに向かっていきたいのか、悩み始めます。

そこに新型コロナの蔓延。誰とも会えない時間が続きます。試験もみんなで勉強していたのにそれもできない。気持ちが徐々に沈んでいく自分がいました。そして3年を終えた後、休学をします。部屋を引き払い、実家に戻ることとなりました。「このとき、気付いたことが2つありました」。


初めて見えた家族との関係

何もすることがなく、家でダラダラしていた娘を見た母親が言った一言が彼女の気持ちを変えていきます。「帰ってきたら絵里がいるのがうれしい」。中高生のときは「がんばりやさん」の自分を演じなければ、という思いがあり、親にも周囲にも気を張って生きていました。
「親や周囲の期待に応えなければという意識でいたので、ダラダラしている自分に親は怒るかと思っていたんです。でも本当は違った。一緒に買い物に行ったりお出かけをしたかったんだと、家族との関係について気付かされました」。


自分の真ん中にあるもの

休学中も気持ちが向けばふらっと旅に出かけることも多かったそうで、その時の気持ちでどこに行くか、何をするかを決めていきました。追われるものが何もないからこそ、自分に素直でいられる。自分の真ん中にあるものを気付かせてくれた一年間でした。その中でも特に印象的だったのが岡山県の「吹屋ふるさと村」。大阪でのシェアメイトに勧められ、バスに揺られてたどり着いた山あいの小さな村。

「着いた瞬間、村の音が『ただいま』と言っている感じだったんです」。まるで昔から知っているような村。人々の温かさがあふれているだけで暮らしていける村。日本遺産登録の観光地ではあるけれど、お互いのおすそ分けが当たり前にある村。2度目は1カ月滞在し、その後も月に1回、1週間ほど滞在しているそうです。「この時期には『頑張らなくてもいい』、『ありのままでいい』という言葉にも疲れていたんです」。何も聞かず、ただただ受け入れてくれる場所。そこに居心地の良さを感じ、その後につながっていきます。


1年間の充電期間を経て

さて、休学は1年のみ。退学が復学かの選択肢はありましたが、「学校をやめるという未来は見えませんでした。むしろ戻る方がまぶしかったんです」。引き払ったから新しい部屋は必要ですが、一人暮らしも辛い、移動手段も考え学校の近くでシェアハウスを探すもない、不動産屋に話しても拒否。「ならば作ろう、と(笑)」。町内の回覧板に載せてもらい、果たして街なかに一軒家を借りることができたのです。

シェアハウスの名前は『このまん間』。「”間”、という言葉が好きで。休学中にギターを習い、先生からは『音楽は弾くときだけじゃなく、鳴っている音が聞こえなくなるまで見届けるもの』と教わって。何もないように感じるけれど、そこには確かに時間と空間が存在していて。それが”間”で。その部分がとても気に入っているんです」。今では民泊の資格も取得して、旅人を受け入れているそうです。


すべてが集約した『このまん間』

1年間の休学は彼女にとって大きな収穫となりました。出会った人、見てきた、感じてきたすべてが『このまん間』につながっている感じです。そして彼女を陰ながら支えてくれる存在も得るきっかけを作ってくれました。それは”リトル絵里”。いわゆる”心の声”のような存在。「ときどき出てくるんです。自分が進む道に迷ったとき、『それでいいよ』と言ってくれるんです」。表面を繕ってきたときには見えなかったもの。素直に自分の感覚で動き出したことで聞こえてきたもの。彼女は今、自分に正直に生きているのです。

「この後は研修医の期間もありますが、それが終わった後はまだ何も考えていません。海外にも行きたいですし、紛争地域で従事することも興味があります。ワーキングホリデーも選択肢の中にあるし、表現活動もしていきたいと思っています。とにかくやりたいことが散在していますが、そんなときに”リトル絵里”が出てくるので、その言葉を信じようと思っています」。

このまん間

9月30日、10月1日に「此間ノ芸術祭」開催








日々URALAからのお知らせをLINEで受け取れます!

#人物

  • ツイートするツイートする
  • シェアするシェアする
  • 送信する送信する