福井が舞台の映画「おしょりん」。 北乃きいさん インタビュー。

2023/11/14

北乃きい(きたの きい)/1991年3月15日生まれ。モデルとしてキャリアをスタートし、05年に史上最年少でミスマガジン・グランプリを受賞。07年、主演作『幸福な食卓』で日本アカデミー賞新人俳優賞、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞などを受賞し、現在まで多くのドラマや舞台で活躍している

オール福井ロケで挑んだ、
眼鏡産業誕生の壮大な物語。

福井が世界に誇る産業・眼鏡の創業物語をテーマにした作品として、2016年に発表された藤岡陽子氏の小説・おしょりん。このたびその小説を原作とした映画が完成、全国に先駆け福井では10月20日より公開されている。監督は、「えちてつ物語 〜わたし、故郷に帰ってきました。〜」でメガホンを撮った児玉宜久氏。主役のむめには北乃きいさんが抜擢され、芯が強く、キラキラとした女性を演じている。その2人にインタビューを行なった。

女性視点で描かれる、
創業への情熱とさまざまな愛。

映画制作のきっかけを作ったのは、駅前の映画館「テアトルサンク」を経営する伊井興業の伊井彌州雄(やすお)社長。「『えちてつ物語』の撮影の話を聞きつけた社長がわざわざ原作をお持ちになって、読んでくださいとおっしゃったんです。実際に読ませていただくと、大変面白くてスケールの大きな物語でした。大変だけれど、福井の話としてぜひやらなければと思いました」と児玉監督は当時を振り返る。特に魅力を感じたのは、縦糸に眼鏡産業創業の物語、横糸に増永家の嫁・むめの秘められた恋が紡がれている点。「サクセスストーリーだけではないところが大変面白かった」と語る。主役・むめは明治時代の女性。ビジネスは男の仕事、女性はそこに口を出すことさえ憚られた時代だ。「それでも福井の女性ならではの芯の強さや生真面目さ、そこから生まれる品のある美しさを表現できるのは北乃さんしかいないとお願いすることになりました(児玉監督)」。



その後、福井県内の全ての行政、そして100を超える企業の協力の下、県内17市町をロケハンし、準備を整えてから撮影がスタート。「映画の中には足羽川堤防の桜や鯖街道や旧岸名亭、旧森田銀行が登場します。増永家は越前市の旧谷口家、むめの実家はおさごえ民家園です。(児玉監督)」。撮影期間は約1カ月。「オール福井ロケで、春先の福井の風を感じながら挑みました。福井弁もテープを送ってもらって練習しましたが、ボランティアの方や出演者の中で集中して撮影できました。美味しいお米や羽二重餅なども食べることができました(北乃さん)」。

主役のむめは、眼鏡産業の設立に奔走する増永五左衛門の妻。家庭を支えながら、従業員を母のような優しさで包み込み、時には資金集めに奔走する控えめながらも芯の強い女性だ。眼鏡産業の成功に向けて兄弟とともに心をひとつにしていく姿が印象的で、ラストシーンの感動に繋がっていく。「むめは“女は三歩下がって男の後ろを”という明治時代にとって先駆け的な存在であったと思います。自分のできることをしよう、という新しくて今っぽさもあったので演じることに難しさは感じませんでした(北乃さん)」。「そうそう、若い頃のちょっとお転婆っぽいところも北乃さんはむめにぴったりと思いましたよ(笑)(児玉監督)」。

そんな明治を生きる女性を描く中で監督がオリジナルで入れたセリフがある。資金繰りに困り、実家から離縁を迫られるむめに姑のせのが「あんたは自由に自分の生き方を選んでいいんだよ」と伝えるシーンだ。「実際はこんなこと言う姑はいなかったと思いますが、そんな人もいたらいいなという僕の想いで。ここが親に決められた結婚をした彼女がその後自分の生き方を選ぶことに繋がっているんです(児玉監督)」。「義母というのは実母までは関係が深くない。この言葉があって、むめは今まで嫁として孤独だったけれど、女性じゃないと分からない想いを共有でき、義母との信頼や関係性が深まったと思いました(北乃さん)」。そのシーンは物語のもうひとつの見所である、登場人物の秘められた恋の行方にも関係していく。「見合い結婚が当然の中で他に好きな人がいながら、という事はよくあることでした。みんなどこかで覚悟を決める時があったんですが、北乃さんはその心の機微を見事に演じきってくれましたね(児玉監督)」。眼鏡産業を成功させるため、心をひとつにしていく中で、随所に現れる“キュン”ポイント。叶いそうで叶わない、最後まで目が離せないラブロマンスの要素も見所のひとつだと監督は熱く語る。

福井県内で先行上映された「おしょりん」は、文部科学省の選定も受け、福井の魅力を幅広い年代に伝える映画となりそう。「『おしょりん』とは田んぼや川が雪に覆われて一帯が地面になりどこにでも行けるようになった状態。時代を問わず、夢を実現するために好きなこと、やりたいことを自由にできるんだということを感じてもらえたら(児玉監督)」。「職人さんや子役にも公募で選ばれた福井の人が登場し、多くの企業やボランティアの人に支えていただきました。これは福井の物語。知られていない魅力を掘り起こし、後世まで伝えられる映画になっています(北乃さん)」。女性の愛と情熱を描いたこの作品、新幹線と一緒に福井の新しい進路を切り拓いてくれそうだ。




全国公開中「おしょりん」

日本のメガネの95%を生産する福井県。その始まりは明治時代。豪雪地帯のため冬は農作業ができず、収入の道がなくなる福井の村を助けようと、増永五左衛門と幸八の兄弟がメガネ工場をゼロから立ち上げた。その史実をもとに福井がメガネの聖地となった成り立ちを追いかけ、“ものづくり”の魅力と技術と魂を吹き込む職人、そんな彼らを支える家族を描く愛と感動の物語。

おしょりん
出演:北乃きい、森崎ウィン、かたせ梨乃、小泉孝太郎 ほか
11/3(金・祝) より角川シネマ有楽町ほか全国公開中
配給:KADOKAWA ©「おしょりん」制作委員会
https://movies.kadokawa.co.jp/oshorin/

月刊URALA STYLE 11月号より抜粋)
取材・文/渡辺幸香 撮影/北川朋伸




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