10月18日から『金津創作の森美術館』にて、上野の森美術館に次ぐ“美術館での販売個展”「長坂真護展」が開催される。ほとんどが新作、という本展の出品作は現地でも制作活動を行なった。その作品をリアルタイムで追い、そこに込められたストーリーを記録する。
2025年9月30日。青空の下、金津の森の中。

抽象的なそれは、「金津創作の森」という豊かな自然の空気感にインスパイアされて生まれたライブペインティング作品。全身に絵の具を浴び、身体全体を使って制作する。長さ2.1m✕高さ2.7mの越前和紙を3枚に、寝転がりながら、時には髪の毛を筆のように使いながら。さながら「アーシング」のような、福井の、金津の大地を感じながら作り上げた。
制作するにあたって、越前和紙、それも手漉きのものにこだわった。明治期より日本画の大家がこぞって愛してきた「岩野平三郎」の和紙。あれだけ転がりながら、全体重をかけながら、水彩絵の具で制作しても、1ミリも破れることがなかったのも、越前和紙の長くそして高い技術の賜物。この作品は、彼をずっと応援し続けてくれた越前和紙産地の人への恩返しでもある。
資本主義の激流の中、走り続けてきた。
画家、長坂真護は2017年から「#スラム撲滅」を合言葉に「サステナブルキャピタリズム」を謳い走り続けてきた。ハリウッドスタッフによる映画制作、全国の百貨店や上野の森美術館での個展、県内2人目となるベストドレッサー賞受賞etc…。ある種のムーヴメントを生み出し、現状の資本主義という激流の中、必死にかじ取りをしながら絵を描き続けてきた。
本気でスラム街の貧困と劣悪な環境を変えようと、自らの報酬を5%と課してきた。ゆえに人よりも10倍も20倍も手を動かし、作品にメッセージを込めてきた。ガーナへの愛と覚悟の行動に共感した人は数知れず。これまでの作品の売上は30億円を超え、その売上を"投資"という形で、リサイクル工場を作り、農場を作り、EV会社を作り、養鶏場を作り、サッカーチームを作り、アーティストを育て、スラム街での雇用は100人を超えている。
アーシングによって地球と一つになった作品。
彼は「画家」である。しかし多くの人は画家以上に「実業家」、「社会投資家」のようなフィルターで彼の一挙手一投足に注目する。しかし走り続ければ無理もかかる。事実、今、彼の右腕はまともに使えない。昨年末にガーナで原因不明の高熱に冒され、神経麻痺を起こして全治1年以上の診断が下された。
このライブペインティングを見ている側として、ある種の悲壮感のようなものを感じた。もちろん、彼の描く作品は、ガーナのスラム街アグボグブロシーの輝かしい未来へとつながる、希望の作品群である。しかしそう感じさせたのは、今回のように全身を使ってまでも行わざるを得ないことにも起因する。
肉体的・精神的な疲労を「アーシング技法」とも言うべきか、大地と一体になり、自らが地球の大地に置かれた一本の筆になぞらえた。日々使っている絵筆への感謝、絵具への感謝を込め、痛みを忘れるくらいに自然と一つになった。自分という存在の実在性を確認しながら生み出したことで、その疲労は地球に溶けて、描き終えた後のすがすがしい笑顔が印象的だった。
勇気と行動を喚起させる希望の個展で何かを感じる。
今秋、10月18日より開催される『長坂真護展』。その目玉の一つである作品「forest memories for future」は、このようにして完成した。金津の大地から、森の息吹からパワーをもらい、計算ずくでは生まれない偶発的なグラデーションをその目で確かめてほしい。(取材・文/宮田耕輔 撮影/Eito Mars)
画家 長坂真護
ながさか・まご 1984 年福井市生まれ。ガーナのスラム街・アグボグブロシーを訪れ、廃棄物で作品を制作し、その売上げから生まれた資金で現地にさまざまな事業を展開。経済・文化・環境(社会貢献)の3軸が好循環する新しい資本主義の仕組み「サステナブル・キャピタリズム」を提唱し、スラム街をサステナブルタウンへ変貌させるため、日々精力的に活動を続けている。
Instagram:@nagasakamago
長坂真護展 supported by セーレン
【日程】10月18日(土)~12月14日(日)
【会場】金津創作の森美術館(福井県あわら宮谷57-2-19)
【電話】0776-73-7800
【時間】10:00~17:00(最終入場16:30)
【休館日】月曜(祝日の場合は開館、翌平日休館)
【料金】一般300円、65歳以上・障がい者150円、高校生以下・障がい者の介護者(当該障がい者一人につき一人)無料
【SNS】@kanazforestcreation
日々URALAからのお知らせをLINEで受け取れます!
