
メトロ劇場(福井市)で10月4日、映画『ナギダイアリー』の公開を記念し、深田晃司監督の舞台挨拶が行われた。9月25日から全国公開された本作は、第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映され、スタンディングオベーションを受けた話題作。岡山県奈義町をモデルにした架空の町「ナギ」を舞台に、地方で暮らす人々の日常や孤独、家族、他者との関係を描く。2019年の『よこがお』以来、約7年ぶりに福井を訪れた深田監督が、根岸佳代支配人の進行のもと、作品の背景と自身の映画哲学を語った。
メトロ劇場では10月16日(金)まで上映。
カンヌで評価された「地方の静かな時間」
カンヌで本作は、慌ただしい映画祭の中で「静かでゆっくりとした時間が、ある種の解毒剤のよう」と評価されたという。
深田監督は、東京やパリなど都市を中心とする映画産業の中で、地方の日常を描いた本作がどう映るのかを考えたと語り、「こうやって地方で上映できて、ようやく『ナギダイアリー』という作品が広く、観てほしい人に届いているなという実感があります」と、地方の映画館で観客と向き合える喜びを語った。
本作の制作にあたり、深田監督は2016年から約9年間、奈義町に通い続け、約10カ月間は現地に滞在。住民の話を聞き、祭りなど地域の行事にも参加しながら、土地と向き合った。
東京生まれ、東京育ちの監督にとって、その原動力となったのは「知りたい」という思いだった。
「表現とは、作り手自身が世界を理解していく過程でもある」
そう語る監督は、一輪の花を例に挙げる。普段は何気なく見ている花も、描こうと手に取れば、花びらの枚数や茎の厚み、色まで見えてくる。「その花の解像度が上がってくる」。奈義町についても同じように、取材し、土地を知り、自分の目で見つめる過程そのものが映画になったという。
プロパガンダ性と観客に委ねる余白
本作の特徴でもある、答えを明示しない「余白」については、映像表現が持つ「プロパガンダ性」への意識を語った。
「プロパガンダ性というのは、ある・ないじゃなくて、大なり小なりあるもの」
だからこそ、作り手の視点は持ちながらも、強いメッセージを観客に背負わせるのではなく、「考えていただけるように余白を作る」ことを大切にしているという。
作品を観て共感してもいいし、共感できなくてもいい。「その人自身の考え方が炙り出されてくるようなものになれば」と語る。
他者は完全に理解し得ないという真理
その根底にあるのが、「人間は孤独である」という、深田監督がこれまでの作品でも繰り返し向き合ってきたテーマだ。
「孤独だけど、孤立はだめ」という劇中の言葉について、深田監督は「基本的には他者を完全に理解することはできない」と語る。それは「重力が上から下に落ちるのと同じぐらいの宇宙の真理」だという。
だからこそ、登場人物同士が完全に分かり合う物語ではなく、「理解し合えない他者と向き合う時間」を映画の中につくる。
さらに、奈義町をそのまま描くのではなく、架空の町「ナギ」とした理由について、「奈義町だけの社会問題ではなく、もっと普遍的なこととして残せれば」と説明。地方の家父長制やセクシュアルマイノリティをめぐる問題などを、特定の地域だけの物語に閉じないための選択だった。
根岸支配人が「福井と根っこで通じるようなメッセージ性」と感じたことに対し、深田監督は「そう言ってもらえるとすごく嬉しい」と応えた。
奈義町から生まれた物語は、福井の観客それぞれの暮らしにも重なりながら、映画館を出た後も、それぞれの中で考え続ける「余白」を残していた。
メトロ劇場
【住所】福井県福井市順化1-2-14
【電話】0776-22-1772
【HP】あり
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