2020/02/10
地元には名店がある。長年人々に愛される名店がある。人が惹きつけ、味が惹きつけ、歴史が惹きつける。それが名店の味。教えたくはないけど教えたい味。
鰻、鯰、鮒、鯉、ウグイ。海の魚を提供する店は数多くあれど、川魚を中心に提供する店はそれほど多くない。それを目当てに東京からも訪れるほど、決して目立つ場所にはないけれど、半世紀を超えてなお人気であり続ける。
勝山市出身の松村武夫さんは東京で板前の修業をした後、福井に戻ってきた。趣味の渓流釣りに出掛けた際、別の友人から「刺身にできるのでは?」との一声が、今の店を形作るものとなった。川魚は海魚と違い、生きていないと鮮度が保たれない。かつきれいな水の中で育たった魚でないと味に出てしまう。だからこそ、素材の鮮度と味を生かすための店舗条件は厳しかった。
また火鉢もこの店にとっては大事なもの。炭火焼きをするための火鉢は東京の職人に作ってもらった特注品なのだ。よく川魚がクローズアップされるが、本質は鰻。武夫さんは東京の老舗鰻店で修行を重ね、開店時にわけてもらったタレを今もつぎ足しながら使い続けている。二代目の次男・知晴さんもまた父と同じ店で修行し、その味を今も守り続けている。
魚菜園(ぎょさいえん)
【住所】福井県福井市順化1-18-8 開明ビル1F
【電話】0776-23-3830
【営業時間】17:00〜深夜2:00(日曜・祝日は21:00まで)
【定休日】無休
【席数】16席
【駐車場】なし
夕暮れ時が似合う線路沿いの小さな店、軒先にポツリと点る灯りに胸を掴まれ、思わず戸に手を掛ける。職人肌の店主の肴で日本酒をちびりちびりやりながら、時折店の背後を走る電車のゴトンゴトンという音を聴き、ゆっくりと夜が更けていく。
富山の黒部生まれの店主は、中学生の時に連れて行ってもらった寿司屋で衝撃を受けた。威勢のいい職人、香ばしい海苔の香り。こんな世界に身を置きたいと寿司職人を志し、叔父のつてを頼って福井で修業。その後腕一本で全国を渡り歩き、再びこの町へ戻る。「恩のある寿司屋の近くで寿司屋はできない、夜遅くまで飲んでもらえる居酒屋を」と40年前に開いたのがこの店だ。小さい店だから『豆亭』。このサイズだからこそ伝わる温度感がある。
長芋をすり下ろしてお好み焼きのように焼いた「ぴんぴん焼き」は、今や全国の居酒屋メニューだが、実は元祖はここ。滋養強壮に優れた長芋で活力を、というネーミングも効いている。
もう一つ、この店に来たら必ず食すべきは「おでん」。店主自身が納得できる味に仕上がるまで3年も試行錯誤したという、職人らしいこだわりが詰まった逸品だ。「夏場は本当に大変なんだけど、毎回おでんを頼んでくれる人がいるからね」店主の変わらぬ丁寧な一皿を楽しみに通う常連が途切れない。
豆亭
【住所】福井県鯖江市水落町3-8-6
【電話】0778-52-8907
【営業時間】17:00〜深夜12:00
【定休日】日曜
【席数】14席
【駐車場】10台
福井市と鯖江市を結ぶ交通の要所として、古くから多くの人が行き来した戸口坂。バイパストンネルができたことで旧道は閉鎖され、山のふもとの集落は行き止まりの町になった。平穏で静かな日常が流れるこの場所で生まれ育った『藪椿』の店主・玉村さんは約40年間、名古屋で洋食のシェフを勤めあげた後、空き家だった実家をそば屋に改装。築200年を超す古民家の庭先には鶏が走り回り、古き良き日本の面影を思い起こさせてくれる。
そんな趣ある空間で味わえるのは、店主が祖母との思い出の味を再現した、昔ながらの田舎そば。昔ながらの石臼で甘皮ごと挽いたそばは栄養素を多く含み、そば本来の力強い風味を楽しませてくれる。のどごしではなく“かみしめるそば”を追求した朴訥な味わいは、料理ひと筋に精進してきた店主の生き様そのもの。昼間1時間だけ、平日ならほぼ30食限定という美味を求めて、県内外から連日多くのそば通が足を運ぶのも頷ける。
丁寧に打ったそばも、鶏たちからいただいた卵も、そして時の流れが止まったような空間も。わざわざ車を走らせて出向いてでも味わいたい素朴なおもてなしがこの店にはある。美味しい、とは味覚だけでなく五感で味わうものだと再確認できる贅沢なひと時を楽しみに、足を運んでほしい。
そば玄 藪椿(やぶつばき)
【住所】福井県福井市西大味町27-33
【電話】0776-41-2114
【営業時間】11:00〜14:00(土日祝は17:00まで)
【定休日】火曜日(祝日の場合営業)
【席数】36席
【駐車場】10台
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