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コト消費の時代はもう古い。これからのインバウンドは“タメ消費”だ|生活藝人・田中佑典

「インバウンドの在り方として、今の時代、モノ消費からコト消費、つまり記憶に残る“体験”のほうが外国人の興味を引く。だからこれからは、その体験ごとを中心にものごとを考えていくべきだ」。

これは全国的にも福井県においても紛れもない事実であり、観光地で購入する魅力あるお土産よりも、自分で打った蕎麦、自分でろくろを回して作った器の方が彼らには受ける。


そう思っている人も多いだろう。しかし…

「モノ消費もコト消費も結局は用意されたコンテンツの“消費”。どこかで限界がきます。僕がいま実践しているのは、次なるステップ“タメ消費”です。」

と語るのは福井県出身で自称“生活藝人”の田中佑典さん。

田中さんは約2年前、福井と台湾の架け橋になればとカルチャー誌「青花魚(サバ)」を刊行し、その中で「2、3日の観光よりもっと深く、だけれど1ヶ月の移住まではいかない旅」=“微住”という言葉を生み出した。実際、福井の密な生活を紹介した同誌は台湾人が福井に微住し、制作が行なわれた。

それからこれまでの間、自身で提唱した“微住”をアジア各国で実践した彼が提唱する新たなインバウンド、「コト消費の次なるステップ“タメ消費”」とはなんなのか。


インバウンドの現状


前述の通り、全国的にインバウンドの傾向はモノ消費からコト消費へと変わりつつあり、その影響もあって、訪日外国人数は年々増えている。今年は東京オリンピックも控え、視界は明るい(ように見える)。

一方、福井県はどうだろうか—。

ご存じの方も多いだろうが、実は、訪日外国人数の福井県訪問割合はかなり低い。外国人の興味を引きそうな「座禅」や「焼き物づくり」「紙漉き」など、地域に根付く伝統あるコト体験が数多くあるにも関わらずだ。

要因はPR不足やアクセス面など、さまざまなことが考えられるが、田中さんが話しているのは、それらを整備しようという話ではない(もちろん整備する必要はあるが)。

現在は“モノ消費からコト消費”というところに落ち着いている、インバウンドの根本的な在り方についてである。



田中さんが考える
“インバウンドの在り方”とは


1.一期一会ではなく、“一期三会”を。

「単語的に言うとタメ消費です。モノ、コトときてタメ。これは何かのタメにする、誰かのタメになる、のタメです。」

一体どういうことなのか、どのようなインバウンドに繋がるのか—。

先ほども述べたが、コトでもモノでも結局は誰かに与えられたコンテンツの消費。

海外の方はそれを消費してものごとを完結させる。しかし完結したものごとが再度動き出す、つまり、その海外の方が別の方を呼び込むという可能性は低い。

なぜならその大半が自分のタメにそのコンテンツを消費していて、そこから、「誰かを呼び込む、もしくはもう一度そこに足を運ぶ理由」が生まれていないからだ。

「旅でよく聞く言葉に「一期一会」があると思います。一生に一度の出会いという意味ですが、それだとその一瞬の盛り上がりで完結してしまいます。僕が目指すのは「一期三会」以上の関係、「ありがとう! じゃあ、また」という一生携いあえる関係づくりです。」

すると次なる疑問としては、どうやってその関係を作っていくのか。である。

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これから福井は変わる。これが福井発祥のインバウンドだ。


田中さんが考える
“インバウンドの在り方”とは


2.自分事にする/させる。

アジア微住中の写真。
観光ではなく、実際その土地での暮らしを味わう

「関係を構築し合う方法は無限にありますが、中でも「微住」は効果的だと思います。
実際、僕はアジア各国を「微住」して、各地の暮らしを2、3週間体験しました。やはり短期的な暮らしはマンネリ化せず、毎日新たな発見があります。
だんだんと自分の中で楽しくなっていき、最終日には「あぁ、あれやっとけばよかった」って思うことが多々ありました。その結果、もう一度そこに行くという一期三会の関係が生まれました。」

ポイントとしては「同じ場所での普通の暮らしが楽しくなる」という点だ。
一般の感覚としては、見たことのない観光地を巡る旅行は楽しいに違いない。とすると、同じ場所での暮らしが楽しいのはどうしてか。

それは、与えられたものではなく、自己啓発的な“自分事”になっているからだろう。ここでの暮らしにお世話になっている人のタメに自分もなにかしようというように、今考えていることが、能動的な“自分事”になっているかが重要なのだ。

自分事になればその熱で周りを巻き込むことができ、相手との関係性が生まれる。関係性が生まれれば、ものごとは完結せずに続いていく。


具体的な例を述べると、
台湾の建築家が微住で福井にやってきて、土地を知る。文化を知る。そしてその地に福井と台湾の文化を融合させた建築物を計画する。微住でお世話になった人のタメでもあるし、これから福井を訪れる人のタメだ。

これは当然自分事となり、台湾に戻ったあとでも「福井にこんなの作ったんだ。一緒に行こうよ!」となるわけだ。

これは福井で、同じ用途の建物を都会のデザイナーにお願いして建て、「さあ皆さん、おいで!」と呼びかけるより何十倍もの説得力、そして魅力があるだろう。

ながながと述べたがこれが田中さんの考えるタメ消費。コト消費に走るのではなく、訪れた人を自分事にさせて、一期三会以上の関係性が築きあえるコンテンツ、土壌づくり、足場を整えることが今、最も重要なのだ。



大野と東郷で進むインバウンド


右側がデザイナー AJとその息子

そして福井でこのタメ消費が現在進行形で進んでいるところがある。それが「青花魚」刊行の際に、台湾の編集チームが微住でお世話になった大野市大野地区と福井市東郷地区だ。

当時それぞれが自分事にし、一期一会で終わらなかったというわけだ。

東郷地区では微住を通して、今でいう「ゲストハウス」を作ろうという動きがあるが、田中さんは、そもそもゲストハウスという名前から変えていかないといけない。ゲストもホストもない状態。お互いにもてなしあう関係性がそれぞれを自分事にさせるのだという。計画はこれからだ。

そして大野地区では先ほどの「タメ消費」の例がそうなのだが、実際に台湾からデザイナーのAJが訪れて、廃ビルをリノベーション、新しいホステル建設の計画が進行中だ。

大野でのホステル制作場面。
台湾から設計チームが微住して作業を行なっている

大野という町に住み込み、空気感を感じそれを踏まえてデザインに落とし込む。ただ素敵なホステルではない、台湾のDNAが注ぎ込まれたものになるはずだ。予定では2020年春には完成する。

世界に置き去りにされない福井の新たなインバウンド、福井らしいインバウンド、“コト消費に変わるタメ消費”、それはもうすでに始まっているのだ。

<プロフィール>
田中佑典(たなかゆうすけ) 
1986年福井市生まれ 日本大学芸術学部文芸学科卒業。学生時代に訪れた台湾の景色・文化に魅了されて以来、日本と同国を繋ぐハブとして様々な活動に貢献。現在は台湾だけではなく、アジア全体にその幅を広げ、その土地に2週間ほど滞在する、観光以上、移住未満の“微住(びじゅう)”を実践、雑誌「ソトコト」でも連載中。
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