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2020/02/25
福井で生まれ育つ人間にとって、
東京は本当に特別な場所である
政治、経済、文化、その他あらゆるコトの中心で、人口は福井の10倍以上と誇る東京。良い人も、悪い人も、できる人も、ヘンな人も、ここには福井の10倍居る。「福井の10倍圧」。東京駅に降り立った瞬間、その圧倒的な「東京圧」に押しつぶされそうになる。
片山享監督も数十年前、東京駅に降り立った。子どものころから福井が嫌いだった。閉塞的で鬱屈とした空気が嫌いだった。初めて駅に降り立ったあの日の片山監督の目には、果たしてどんな東京が映っていたのだろう? それから何年も東京に揉まれ、様々な人と出会い、そして別れ、やがて福井への思いも変化していく。
そこで映画「轟音」である。
片山監督のキャリア初となる、オリジナル長編映画。全編福井ロケを敢行し、冒頭からエンディングまで福井の街を舞台に物語は進行していく。
そこに描かれているのは偽りのない人間たちの生きる姿だ。犯罪者の家族を持つ青年を主人公とし、自殺、不倫、暴力、親の介護…。これでもか、というほどネガティブなテーマを真正面から描いていく。
何度も言うが、その舞台は『幸福度ランキング日本一』の我が福井。
子育てがしやすい、食べ物がおいしい、自然が豊か、学力体力日本一、ちょっとシャイで優しい人たち。そんな、福井県庁が打ち出したいポジティブ要素はこの映画に一切登場しない。
先日、池袋の「シネマロサ」で初日を迎えたこの作品。場内はほぼ満員の観客で埋め尽くされていた。その中にはきっと、福井を故郷に持つ人もいたはずだ(実施にこの原稿を書いている筆者がそうだ)。そんな人たちにとって、特別な思いを抱かせる作品だったと思う。
見慣れた田園風景、白波が立つ日本海、福井地裁、東尋坊タワー…。そのすべてが暗い影を落とす登場人物たちの悲哀の舞台。人気のない深夜のガレリア元町。薄暗い路地裏で人が殴られ続けるシーンは息をのむ迫力とリアルさがあった。
普段では体験できない「非日常」を描くのが映画の魅力だとしたら、この作品では途方もなく暗い「非日常」を体感させられる作品だ。
エンドロールが流れ、照明が灯る。自然と巻き起こる拍手。舞台には片山監督と役者さんたちが並ぶ。片山監督がマイクを握り、一言を発する。
「この映画は福井の希望を描いたものだ」
映画に登場する人は偽ることも飾ることもなく、ひたすら懸命に生きている。もがいて苦しんで、必死に生きていく。そして、ラストシーンで徐々に夜が明ける福井の街を、叫びながら走る主人公が描かれる。それまでのストーリーを見てきた観客にとって、胸が張り裂けそうになるシーンだが、「希望に向かって走っていた」と言われると妙に納得できてしまう。
東京にどっぷり浸かり、福井を外から見ることのできた片山監督。日本で唯一、この映画を特別な思いで観ることができるのは、福井で生まれ育った人たちだけだ。
メトロ劇場で3/28(土)から公開予定なので、ぜひ。
轟音
【公式HP】https://www.go-on-film.com/
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