【まほろばなし】
2021/02/14
達‐TATSU‐(以下略、達):第八回目となりました「まほろばなし」。今回は「夫婦での楽曲制作」についてお話しをしていきましょう。
――「想い」を「音」にする
春‐HARU‐(以下略、春):立春を迎えこれから季節はあたたかな春へと変わっていきますが、まだまだ気軽に外出できない状況が続いていますね。まほろばは引き続き制作活動を行っていますが、昨年から長らく作りためてきた楽曲からいくつかを完成させるべく、制作作業も大詰めとなっています。
達:僕たちは、演奏もですが楽曲においても二人で制作をしています。よく「夫婦での曲作りはどのように進めているのか」という質問をいただくことがあるのですが、作曲の進め方というと僕たちの場合はあまり固定せずに様々な方法を実践してきていますよね。なにか印象に残っている「制作の思い出」はありますか?
春:達と私はもともと楽曲制作のスタイルが少し違いましたよね?特に感じたのは「大海に光りの舟よ」の制作の時、まず曲に込めるメッセージや届けたい想いなどを深く掘り下げて、コンセプトまでしっかりと決めてから初めて音を出す、という進め方をしましたが、当時の私にとってはなかなか新鮮な作り方でした。
達:僕は楽曲制作では「伝えたい想い」が先行することがよくあって、「何を届けたいのか」「なぜ曲にするのか」を考えることで制作意欲も向上し、音楽的な制限が少ないことで表現の方向性が明確にでき、その感覚が好きなんです。もともと、打音で構成される太鼓での作曲を主にしていたことが関係しているようにも思いますね。
春:コンセプトや内容が詳細に決まっているので、仕上がった作品の中に込められたメッセージの濃度が高いというのはもちろんのこと、そのような制作手順だからこそ生まれるメロディや歌詞があって。特にサビの「ト ト トイヤーサ」というフレーズなどはその影響が大きいと感じます。同じ「大海に光りの舟よ」で、後半のブリッジパートは確か達が電車の中で思いついたんだよね。
達:移動中に曲のアイデアが浮かぶことはよくあって、その時も「忘れないように!」と歩きながら録音をしたのを覚えています。まほろばならではの曲作りといえば、「祭神 -MATSURIGAMI-」の制作も思い出深いですね。
――リズムから描いていく音楽世界
春:そうですね、「祭神 -MATSURIGAMI-」では達の打つ太鼓のリズムをもとに作曲をしましたね。それまでは主に歌メロやコード進行などから作曲をすることが多かったので、リズムから作曲をした初めての曲だったと思います。
達:本当に太鼓のリズム以外は何もない状態から笛のメロディが生まれ、そこにコードを付けてコンセプトが決まって。当時のまほろばとしては新しい試みでしたね。
春:打音のみの状態からどのような曲が作れるのか最初は正直不安もありましたが、達の打つ太鼓の軽快なリズムから「祭」のイメージが湧いて。そこからイントロ後半の笛のフレーズが生まれるまでが意外と早くて一安心したのを覚えています。「祭神 -MATSURIGAMI-」では、いわゆるお神輿や山車が練り歩くような「お祭り」ではなく、ただただ夜通し火を囲みながら踊り、自然の恵みや命が巡ることに感謝するような素朴な「祭」を描いています。楽曲制作中は、打楽器が生み出すリズムに心が沸き立ち、身体が自然と動き出すような感覚というのを曲に込めることができればと考えていました。そのようなコンセプトが生まれたのも「太鼓のリズム」先行で作曲したからかなと思いますね。
達:「祭神 -MATSURIGAMI-」の原型ができたのはまほろばを結成して間もない頃でした。制作当時、太鼓と歌を軸とした音楽の可能性を探っていくなかで、「太鼓」と「音楽や歌」の共存や調和、太鼓がもつ魅力や「らしさ」とは何かを考え、楽曲制作を太鼓からはじめる事でより親密な形や新しい可能性を見出したいと考え取り組みました。言葉で言い表すことが難しいですが、少し論理的な手法から入ったものの、思いも寄らない収穫があり興味深く興奮気味に試行錯誤しました。楽曲の終盤では多人数で打つ「組太鼓」のイメージを色濃く取り入れ「祭」の熱と人々の活気を表現しています。
――夫婦で音楽をつくるということ
春:私達はメンバーであると同時に夫婦として生活を送っているので、楽曲に対するひらめきや想いのキャッチボールが日常の様々な場面で行えて、即座に音楽に反映できるのはとてもありがたいことですね。
達:そうですね。メンバーが常に近くにいるからこそ、音楽制作に必要な様々な工程を完全な分業とすること無く、その時の状況に合わせて二人それぞれに行う事ができ、その柔軟性がまほろばの音楽にも大きな影響を与えていると感じます。
春:一見音楽には関わりのないような(例えば映画だったり読み物やデザイン等に至るまで)、音楽以外の芸術作品に触れるとき等も「二人一緒に」ということを夫婦として自然と実践できていることも、まほろばという世界観の共有にとても役立っているように思いますね。
達:最後に、今回お話した中から「祭神 -MATSURIGAMI-」を歌詞と合わせてお聴きください。
達・春:それではまた次回の「まほろばなし」でお会いしましょう!
「祭神 -MATSURIGAMI-」
作詞・作曲・編曲:達-TATSU- 春-HARU-
月待 宵闇 大人も子も集いて
田の神 水神 山の神へと、さあ
彼方に 蜩 我も彼も忘れて
田の神 水神 山の神を讃えよ
風よ吹け 雨よ降れ
ナヒタ テ イサ 数多の恵みよ
トワ メ イヴァ 絶え間なき その生命の流れ
円になって踊れ 天を仰ぎ踊れ
抜けたら終いさ 「おにさん、こちら。」
朝まで踊れ 祈り捧げ踊れ
水面にそっと ゆれた ゆれた
円になって踊れ 天を仰ぎ踊れ
抜けたら終いさ 「おにさん、こちら。」
朝まで踊れ 祈り捧げ踊れ
水面にそっと 揺れた月よ
火を炊き 夜通し 手をたたき足を打て
田の神 水神 山の神に捧げよ
川を越え 海を越え
ナヒタ テ イサ 今こそ 目覚めよ
トワ メ イヴァ 受け継がれし 祭神の運命
円になって踊れ 天を仰ぎ踊れ
抜けたら終いさ 「おにさん、こちら。」
手をとって踊れ 声を上げて踊れ
刹那に散った 恋の花よ
いつかは 消えてしまう
夢のような生命を また震わせて
人は祈り踊る 嗚呼 はかなき浮世に…
円になって踊れ 天を仰ぎ踊れ
抜けたら終いさ 「おにさん、こちら。」
朝まで踊れ 祈り捧げ踊れ
水面にそっと ゆれた ゆれた
円になって踊れ 天を仰ぎ踊れ
抜けたら終いさ 「おにさん、こちら。」
朝まで踊れ 祈り捧げ踊れ
水面にそっと 揺れた月よ
「おにさん、こちら。」
朝まで踊れ 祈り捧げ踊れ
水面にそっと 揺れた月よ
まほろば/ポップスの先端で培われたクリエイティビティーと和太鼓という一見相反する要素をオリジナリティー溢れる幻想的なサウンドとして奏でる夫婦音楽家。2017年1月にリリースした配信デビューシングル「大海に光りの舟よ」はiTunesジャンル別ランキングで1位を獲得。デビューからわずか4カ月後に行われた初単独公演ではチケットが完売など、和太鼓と歌を軸に創り出される音楽世界に引き込まれる人が続出。
まほろばofficial Web Site
Twitter Instagram
【達 -TATSU-/和太鼓・作曲・編曲】
福井県の伝統を継承する和太鼓一家に生まれる。17歳でプロ邦楽集団を立ち上げ、日本のみならず海外での活動も行なう。ソロ奏者に転身後、ミュージカルでの全編作曲・編曲・演奏、様々な太鼓グループへの楽曲提供などコンポーザーとしても活躍する。DAWを使用する和太鼓奏者としても注目を集めており、2020年にRolandが発表した世界初の電子和太鼓〈TAIKO-1〉の開発にアドバイザーの一人として参加している。
【春 -HARU-/歌・作詞・作曲・編曲】
福井県出身。中島美嘉、CHEMISTRY、坂本真綾、Little Glee Monster などメジャーアーティストへの楽曲提供、CMソングの制作なども手がける作詞作曲家。多様なコンピレーションアルバムへの参加や、LOVE PSYCHEDELICO 武道館ライブのコーラスに抜擢されるなど、ボーカリストとしても活躍。まほろばの楽曲に多く見られる「言葉を唱える」ような歌詞は、呪術医(まじない師)であった祖父からの影響であり、独自の世界観をつくり上げている。
日々URALAからのお知らせをLINEで受け取れます!