【まほろばなし】
2020/11/04
達‐TATSU‐(以下略、達):第五回目となりました「まほろばなし」、今回は前回に引き続きメンバー二人それぞれの「音楽との出会い」についてお話していきたいと思います。前回の「まほろばの音楽、その根源をたどる。《前編》」では主に幼少期から学生の頃までの音楽との関係性をお話ししましたが、今回の《後編》では現在の「まほろば」にも通ずる、それぞれの「音楽づくり」の始まりについて紐解いてみましょう。
――「音楽」によって広がる「言葉」の力
春‐HARU‐(以下略、春):私は自作の曲を作り始めたのが20代になってからで、その頃には歌も歌い始めていたこともあって、エレクトーンで演奏していたようなインスト曲ではなく初めから「歌もの」のポップスを作っていました。エレクトーンを弾いていた頃は演奏自体が楽しかったので、自作の曲を作ってみようという気持ちにはあまりならなかったのだけど、歌を歌い始めた時には「自分で作った曲」で表現することの方に興味を持って。もちろん最初から思い通りの曲が作れるわけではないのだけど、決められた音符を弾いて表現するのとはまた違って、自分の好きなように展開を作っていける自由さが性に合っていたのか、作曲は始めてすぐに夢中になりましたね。
達:いまでも、春の作曲への姿勢はまさに「夢中」そのものだよね。普段は生活のリズムがきっちりしてるのに、作曲の時は寝食を忘れて作業をしているし。作詞も作曲と同じ頃から始めたの?
春:そうだね、作曲と同時に作詞も始めて、作詞に関しては「言葉と音の組み合わせ」で感情を表現することが楽しくて、こちらも作曲の延長線上でどんどんとのめり込んでいって。
達:言葉と音がぴたりと組み合わさった時には、それぞれ別々に聴く時とはまた違った感動があるよね。
春:そうそう。日常生活の中で使っている何気ない言葉も、メロディに乗って歌われることでぐっと奥行きや深みがでたり、劇的になったり。音楽によって言葉の持つ力が果てしなく広がっていくことは本当に興味深いし、それによって人の心が動くという神秘性がとても好きで。作曲をしているとメロディが言葉を呼んでいると感じることもあって、その言葉を見つけられるとなんとも言えない高揚感がある。達は中学生の頃から作曲を初めて、最初は太鼓だけの曲を作曲していたんだよね?
――見えない感情を表現する
達:僕の場合はそもそも「演奏をしたいから作曲をする」ということから始まったんだよね。自由に演奏をすることが出来る創作太鼓用の曲というのは少なくて、自分が望む形態で演奏したい場合は作るしかないと考えていたから。
春:確かに、太鼓だとバンドやシンガーソングライターのように「既存曲のカバーを演奏する」というわけにはいかないもんね・・・。「演奏したいなら作らないといけない」という制約はなかなか大変そう。
達:そう言われてみるとそうだね、当時はそんな風には考えもしなかったけれど。でも、太鼓の打音・響き・強弱のアクセント・高低音などのシンプルで限られたような条件で曲を作ることから「作曲」の世界に入ったことは、僕にとっては運が良かったように思う。単純なようでそうでない無限の表現力を太鼓が教えてくれたというか。心の高揚感、見えない感情を打音で表現するにはどうすれば・・・と中学生の当時は特に感覚が先行していたから、作っては崩しをとにかく繰り返して感性を磨くしかない。気持ちが高まる、想いが届く演奏がしたいから、そうなれる曲も自分で作れなくてはという想いだったよ。
春:今は打楽器パート以外の作曲もしてるわけだけど、それはいつ頃から?
達:10代後半で結成した邦楽集団の活動のなかで、太鼓・篠笛・尺八・津軽三味線の編成で楽曲を作ることになったことがきっかけで始めて、その経験が僕の曲作りの幅を広げてくれたと思う。東京に出てからは、ミュージカルの音楽制作を任せていただいたこともあって、太鼓奏者として出演しつつ演者さんが歌う全楽曲の制作を担当したんだけど、このような音楽的な活動が増えていったことも、今考えてみれば「まほろば」という音楽形態の構想に大きく影響したと思う。
春:達の作曲は、鍵盤で作曲する私から見るととても面白いと感じる事が多いんだよね。私が作ったデモにリズムパターンを加えたり、コーラスやシンセのバッキングのポジションを達が変えると全く別の印象の曲になるからビックリする。あとは曲構成を驚くほど大胆に変えるから、聴いた時は「ええー!」って思うけど、それで曲が想像以上にエモーショナルになったり・・・。
達:中学生で太鼓の作曲をするようになった頃、楽器のみで構成される器楽曲の魅力を深く感じるようになって、その時の感覚が自分の曲作りの特徴になっているのかも。当時の身近なところでは映画音楽やゲーム音楽に始まり、和楽器関連はもちろん、様々な国の音楽をジャンルを問わず聴いては自分の環境に置き換えるようなことを繰り返していて。どちらかといえば、細かな音楽の知識というよりも、もっと体感している感覚的な感動を知りたくて、例えば気になった一曲を繰り返し数日間聴き続けて、音が気にならなくなって考えずに聴けるようになってきた頃に、その中で耳に残るようになったものを知って、その発見を楽しむようなことを繰り返していたよ。とにかく身体に染み渡らせるような、覚えるというよりも叩き込みたかったんだと思う。
春:打音のみの曲、そして歌のない器楽曲の作曲を経てきた足跡が、まほろばの曲にもしっかり残っているし、それがまほろばらしさになっているのかもね。まほろばらしさと言えば、「太鼓と歌」という編成自体があまり無いという話を第一回目の「まほろばなし」でさせていただきましたが、あえてこのような形で活動している理由など、そちらの記事も是非御覧ください!
和太鼓と歌の夫婦音楽ユニット
「まほろば」とは?|まほろばなし【第一回】
――「福井」という風土に育まれた音楽性
達:ここまで話してきて、僕たち自身も改めて「まほろば」に至るまでの道を振り返ることが出来たね。それぞれ全く別の道をたどって音楽活動をしてきたわけだけど、二人で最初に「まほろばの夜明け」という曲を共作した時、音楽の方向性や着地させたい場所の違いを感じることがなかったのは今思うと不思議だったね。
春:それはやっぱり、私たちが同じ福井県という土地に生まれて育って来たという事実が大きく影響していると感じるんだよね。それに関しては「まほろば」結成当初よりも、数年間一緒に曲作りをしてきた今、より強くそう思う。曲を聴いてくださった方からよく「まほろばの曲は景色が見える」と言っていただくことがあるけれど、ほんの10年前まで同じ風土に根ざして生きて来た二人が作る曲だから、無意識的に共有できているものがあるからこそではないかな、と。
達:楽曲制作時に意識的に自然を思い描いて音に込めていく、ということはもちろんあるけれども、自分たちの無意識のなかでもいつも故郷の景色が存在していて、それが音楽に入り込んでいるようにも思う。僕たちが同じ福井で生まれ育ったことでの共通の感性が、「まほろば」の作品を通して「楽曲の景色」に繋がっているのかも知れないね。音楽に限らず、ひとりの人間として四季折々の自然を身近に感じ暮らせたことは、自然の持つ豊かな表情を「心」に深く与えてくれたような気がする。
――これまでと、これから。
春:太鼓奏者である達と共に「まほろば」として活動する中で、日本の様々な音楽や歴史・民俗学など、「今」に至るまでの「古」についてこれまで以上に興味を持てたこと、そしてそれを「音楽」として表現・発信できる場所が自分たちにはあるということがとても有り難いし、誇らしく思っていて。これまでの経験に積み重なっていく「これから」も、より多くのことを学び経験し「まほろば」の音楽表現を更に豊かにしていけたらと思います。
達:幼少期から太鼓と向き合ってこれたことで、「人と自然」についてや、受け継がれてきた物事、時代時代で創造されてきた物事の理由や想いについて考えることが多かったけれど、改めてこれまでの経験が「まほろば」の音楽に生きていると深く感じることができた。限りある時間のなかで何を選びどう生きるのか。これから先、平坦でなくとも志を胸に進み「まほろば」の作品を創造し伝えていきたいと思います。
春:今回はメンバー二人それぞれの「音楽との出会い」について、前後編の2回に渡ってお送りしました。
達・春:それでは、また次回のまほろばなしでお会いしましょう!
まほろば/ポップスの先端で培われたクリエイティビティーと和太鼓という一見相反する要素をオリジナリティー溢れる幻想的なサウンドとして奏でる夫婦音楽家。2017年1月にリリースした配信デビューシングル「大海に光りの舟よ」はiTunesジャンル別ランキングで1位を獲得。デビューからわずか4カ月後に行われた初単独公演ではチケットが完売など、和太鼓と歌を軸に創り出される音楽世界に引き込まれる人が続出。
まほろばofficial Web Site
【達 -TATSU-/和太鼓・作曲・編曲】
福井県の伝統を継承する和太鼓一家に生まれる。17歳でプロ邦楽集団を立ち上げ、日本のみならず海外での活動も行なう。ソロ奏者に転身後、ミュージカルでの全編作曲・編曲・演奏、様々な太鼓グループへの楽曲提供などコンポーザーとしても活躍する。DAWを使用する和太鼓奏者としても注目を集めており、2020年にRolandが発表した世界初の電子和太鼓〈TAIKO-1〉の開発にアドバイザーの一人として参加している。
【春 -HARU-/歌・作詞・作曲・編曲】
福井県出身。中島美嘉、CHEMISTRY、坂本真綾、Little Glee Monster などメジャーアーティストへの楽曲提供、CMソングの制作なども手がける作詞作曲家。多様なコンピレーションアルバムへの参加や、LOVE PSYCHEDELICO 武道館ライブのコーラスに抜擢されるなど、ボーカリストとしても活躍。まほろばの楽曲に多く見られる「言葉を唱える」ような歌詞は、呪術医(まじない師)であった祖父からの影響であり、独自の世界観をつくり上げている。
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