【パルタージュ】

故郷の秋、フランスの秋。|パルタージュ

2020/11/11

『ぶどうのある秋の静物画』 ©Tomoko Iozaki

9月に入ると福井で暮らす家族や知り合いから「稲刈りが始まった、涼しくなった」などと秋の便りが届くようになった。同じ頃、フランスの20時のニュースは、今年の夏の降雨量が少なかったため、例年よりも早く落葉が始まったことを伝えていた。

夏から秋、そして冬へと季節が移り変わるこの時期になると、故郷で家族と過ごしていた頃の懐かしい記憶がよみがえってくる。例えばそれは、ひんやりとした早朝の空気の中に稲刈りが終わった後の田舎のにおいに似たものを感じる瞬間だったりする。湿気や気温などの条件が偶然にもそろい、生み出されるものなのだろうか。言葉では表現できない驚きがある。

電柱のないパリの道路では、紅葉したマロニエやプラタナスなどの背の高い街路樹がトンネルを作っている。ルノアールの絵を思わせる、穏やかな木漏れ日が注ぐ歩道を歩きながら、両親が暮らす実家や周囲の変わらない秋の風景が目に浮かぶようだ。

今年も秋晴れの空に黄色く染まった街路樹や金色に染まった稲穂が散歩する人たちの目を楽しませたのだろうか。実家の庭には4種類の柿の木が植えられていて、秋に帰国すると好きなだけ食べさせてもらえる。富山の親せきからは毎年大きな梨が送られてくる。

フランスでも時季ごとに豊富な種類の野菜や果物が採れる。残念ながら大好きな金時芋に匹敵する味のさつま芋は手に入れることができないものの、日本の味に近い冷凍のサツマイモを見つけて、スイートポテトを作るとフランス人はとても喜んでくれる。

8月の終わり頃、ワインで有名なブルゴーニュ地方を通りがかった際に、車窓からブドウを収穫している風景を目にした。その後ニュースで見た生産者の嬉しそうな表情からは収穫への手応えが伝わってきた。

そしてワインフェアが開催されるこの時期になると、ミュスカやシャスラというフランス産で小粒のブドウが店頭に並ぶ(フランス人が皮も種も食べるのには驚いた)。

リンゴや梨も一番美味しいシーズンを迎える。例えばコンフェランスという種類の梨は、日本のシャキッとした瑞々しい梨と違ってとろりと柔らかく、福井の両親にも一度食べさせてあげたいと思う味わいだ。

画家/五百崎 智子 1971年、福井市生まれ。パリ在住。福井大学などで油絵を中心に学び、渡仏後は語学や絵画などを勉強。制作活動の傍ら、日本の高級食料品や地酒などを扱うパリ市内のお店で働く。


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#コラム#アート#連載

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