【パルタージュ】

夫愛用のルイ15世様式肘掛椅子。|パルタージュ

2021/01/13

『椅子の張替えに挑む夫の図』 ©Tomoko Iozaki

以前、福井で作品展を開いた際に娘が会場で見つけて、プレゼントしてくれた陶器製のコーヒーカップを愛用している。ある時、不注意で欠けてしまい、継ぎ直して使い続けているカップはおかげで個性が生まれ、ますます愛着を覚えるようになった。

夫にとってもそんな愛用品のひとつと言えるのだろうか。10年以上前、ルーブル美術館の近く、セーヌ川沿いにあるアンティーク店で購入した椅子は、現代風にアレンジしたルイ15世様式の肘掛椅子で、柔らかい優雅な曲線の樫の木のフレーム、肘掛のところには「アリコ(豆)」と呼ばれる小さなクッションがついている。

一時期ギャラリーを経営していたつながりから、夫には時々、肖像画の依頼が舞い込んでくる。福井の知人を描いたこともあり、写真で依頼してくるクライアントも多いのだが、私たちが暮らすアトリエに足を運んでもらうことが稀にある。そんな時、絵になる素敵な椅子があるといいね、という話から購入に至ったのがこの椅子だ。

夫はいつの日からかそれを自分の仕事用の椅子として使うようになり、毎日パソコンの前で何時間も座っている。次第にすり減って薄汚れ、シートの部分はつぶれてしまった。

フランスで2回目のロックダウンが始まる頃、座り心地の悪さを理由にとうとう張り替える決心をしたようだ。ユーチューブで方法を調べた後、材料を買い込んできた。

画家にとって、キャンバスに布を貼る(ロールになったキャンバス布を買ってきて、必要に応じて切り取り木枠に貼る)工程に似ている部分もあるものの、ヨーロッパ独自に受け継がれてきた方法や専門用語などがある。

スプリングを中に8個ほど入れ、紐で縛り、その上に乾燥した馬の毛などを乗せて布を被せ、木のフレームにぴんと引っ張りながら固定させていく。

職人の技術を持ち合わせていない夫は、釘ひとつ打つのにも思うようにはいかず、力任せに叩きつけて、とうとう私がパリの美術学校時代に先生に勧められて購入した思い入れのある金鎚の柄を折ってしまった。

それでも長い工程を1週間以上かけて忍耐強くやり遂げた夫の姿に私は感心し、興味深く作業風景を眺めながら晩秋の日々を過ごしていた。

画家/五百崎 智子 1971年、福井市生まれ。パリ在住。福井大学などで油絵を中心に学び、渡仏後は語学や絵画を勉強。今冬、クリスマスと新年のイブだけは多少ロックダウンの規制が緩和されるようだ。


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#コラム#アート#連載

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