2023/08/28

人の縁があってこそ、
道は拓ける
しかし、訪れることと住むことは大きな違いがある。差別だ。「ニューヨークは言ってみれば〝全員外国人〞なんです。自分が外国人だと感じることがあまり無い環境だったから、ここでも同じだと勘違いしてしまっていました。まったく相手にされていなくて、自分の持っているスキルも何もかも、出す機会さえ最初は与えてくれませんでした」。かといって逃げ出すわけでもない。むしろ刺激的だったという。「やはり個性が強い街ですから、訪れるお客様みんな好みが違うんです。だから自分の〝引き出し〞を全部を開けて対応する感じだったので楽しかったんです」。

1年半後には店を構えることとなり、その2年後にはアパレルブランドも立ち上げる。もちろん経営の資質があるからこそだが、彼の周りに広がっている〝人の縁〞がとても大きい、と彼は常に言い続けている。「いつも人に助けられてきました。お店を開くことになったのも、どうやったら日本人の自分ができるのか、お客様のつながりもとても大きかったと思います」。
アパレルブランドは服飾デザイナーから声を掛けられスタートした。東京やパリ、ドイツでも展示会をして高い評価を得たが、違和感もあった。「アパレルに時間を割くのも自分の仕事ではないし、聞けばアパレルの5割が廃棄されるといいますから、環境には良くないと。だから協働でのアパレルブランドは抜けて、自分のできる範囲でやることにしたんです」。必要とされたときに自分でデザインした服を作る。完全受注生産方式に切り替えたのだ。それもやはり人の縁が大きい。「ニューヨークにいたときにデザイナーから教わったのですが、その方が伝えてくれたのはデッサンの技術ではなくファッションという哲学でした」。ファッションの根本思想の薫陶を受けたからこそ、サステナブルなブランドに昇華したのだ。現在和紙を組み込んだアパレルを、越前市の縫製工場「モンスター株式会社」と作っている。さらに今年8月には日本のスキンケアブランドと協働して、人にも地球にも優しいヘア&スキンケアクリームを開発販売する。「ヘアにもスキンケアにも両方使える、これまでにないサステナブルな商品になります」。



二足のわらじが
もたらしてくれる恩恵
美容室、アパレル、コスメ。人に請われ、人と共に実行する。三足のわらじどころか、DJもこなす四足のわらじの生活だ。すべて自分がやりたいことを形にしているだけ。ただ、それが肯定的に見られる場所と見られない場所がある。前者がヨーロッパ、後者は、もちろん日本だ。日本では副業はまだまだNG。一つの仕事に集中することを良しとしている文化は根深い。彼は高校の時からDJを続けていて、日本にいたときは仕事場からいぶかしく思われていたという。しかし彼の考えは違う。「音楽とヘアはつながっていると思っています。カットはリズム感が大事ですし、音楽からヘアのインスピレーションも沸いてきますし、お店の雰囲気も音楽一つで変わりますしね」。それを体感したのもドイツでだった。二つがクロスオーバーすることで、その人にしかできないクリエイティブが生まれる。やがて同じ感性の人たちが集まることで新しいカルチャーが生まれていく。自分の幅を広げていくことは結果、多くのつながりを生み、カルチャーとビジネスは広がっていく。「自分ができることをやれば、自分にしかできないことが生まれます。それがナンバーワンではなくても、自分をオンリーワンの存在にしていくのではないでしょうか」。

福井が持つ可能性は
どこにあるか
最近、ドイツの仲間の間では「福井」という言葉がよく出てくるという。彼のアパレルで和紙を使っていることから、和紙に興味を持ち、ドイツから越前和紙の産地を見学に訪れた人もいたという。帰国するなり彼らは興奮してこう言った。「福井のポテンシャルは高い」と。「産業とカルチャーが融合する可能性が高い」と。彼は分析する。「伝統工芸がしっかり根付いていて、気取らずに、都会のものに流されずに生きている人が多い。内面的な深さも感じますし、独特な雰囲気を持つ街だと思います。それにドイツと福井って、人の距離感が近いところが似ているな、と思います」。
それは環境も関係あるのかもしれないと彼は言う。「いろんな街で暮らしてみて感じたのは〝福井の人はどこでも住める〞ということ。どんよりとした雲は、福井の冬では当たり前で、ドイツも同じなのですが、この天気で気分が落ち込んでドイツから離れる日本人を何人も見てきました。安島に住んでいた頃は晴れと雨と雷と雪が目まぐるしく変わるのを見てきましたし、どんよりとした雲を知っているのは強い、と感じます」。
独特の雰囲気と湿度感は福井の強みでもあるのだ。「デュッセルドルフにはさまざまなカルチャーの著名人が住んでいて、普通に街で見かけることも多いです。そうした人たちが住む個性的な街で、似たような感性の福井を伝えていきたいと思っています」。
(月刊URALA STYLE 8月号より抜粋)
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