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2025/01/02
恐竜界のトップランナーとして活躍する、福井市出身で北海道大学教授の小林快次さんが11月、坂井市龍翔博物館などで講演を行った。「研究すればするほど、恐竜が人間と重なって感じられる」と話す小林教授。恐竜と人間に共通するものとは一体何なのか。研究を通して見えてきたもの、伝えたいメッセージについて伺った。
恐竜研究の専門家として活躍する小林教授が、恐竜研究の道へと進むきっかけとなったのは高校時代。その頃、福井県では県内初の恐竜化石が発掘され、博物館開設に向けた準備が進められていて、当時の小林青年は化石のクリーニング作業に参加。その縁で知り合った研究者との出会いから、恐竜への学びを深めていく。その後も海外の大学で学んだり、国際的な発掘調査に参加したりと活動の場を広げ、現在は北海道大学総合博物館で教授として研究調査に従事。その一方で講演会でも全国を飛び回り、恐竜にまつわる興味深い話や研究を通じて感じたメッセージを発信している。
11月4日に坂井市龍翔博物館で開催された特別講演会でも、国内外での発掘エピソードを披露し、何度も会場を沸かせた。一方で「種にも寿命があり、人間もそろそろ絶滅の時期に来ている」というショッキングなメッセージも語られた。本当に人類は絶滅してしまうのだろうか。「地球の人口80億人が今後、今の暮らしを維持して繁殖していくには、地球が3つ必要です。絶滅はするかしないかではなく、その時期がいつかということ」。
人間は技術を進化させ、他の動物とは違う“スペシャリスト” になったが、生物は特化していくほど脆弱性が高まっていくのだという。
「今、僕らは技術があるから生きていられるけど、電気がなくなっただけで終わってしまう。生命体としては非常に弱いのが人間なんです」
恐竜研究というと、太古の世界を探求しているように思えるが、小林教授は次の世代を考えることだと捉えている。
「恐竜って人間と重なることが多いんです。全大陸に行ってどんなに厳しい環境でも生存して大繁栄して、忽然といなくなった。今の人間を見ていると、恐竜のようにどの大陸にもいて天下を取ったようだけど、実は絶滅が目の前に来ているという点は重なるところがあり、恐竜から学ぶことがあるのではないかと感じます」
研究を重ねれば重ねるほど、恐竜が優秀な生命体であることがわかり、人間らしさを感じるという。
「今、人間はなんでもできると感じていると思うんですけど、実際には、絶滅がすぐそこの薄い壁一枚まで迫っているかもしれないという状況です」
アメリカのナショナルジオグラフィック財団で助成金審査員を務めている小林教授。「財団には世界中から『どこどこの鳥がいなくなる』『こんな魚がいなくなる』といった悲鳴が聞こえてきます」と、絶滅の声をリアルに感じているという。
では、恐竜が絶滅したことから私たちはどんなメッセージを受け取れるのか。
「恐竜になくて人間にあるもの。それは考える力。知性をもってすれば絶滅を延ばすことができるのではないでしょうか」と、私たちに投げかける。
「恐竜好きな子たちが実はこういう深いメッセージがあると理解してくれると世の中が動く。次の世代の彼らの心に浸透していくと思っています」
講演会場では小林教授からの「この恐竜はなんだと思う?」といった問いかけに子どもたちが次々と声を上げ、目を輝かせて話に聞き入る姿が印象的だったが、そもそも私たちはなぜこんなにも恐竜という生き物に惹きつけられるのだろうか。
「存在しない変わった生き物だからではないでしょうか。変わった大きい生き物が実は本当に生きていたというギャップ。僕らの常識を超えた生き物だから魅力を感じるんじゃないでしょうか」
今、恐竜研究の分野では「復活」が一つのキーワードとなっている。化石に残ったたんぱく質から恐竜の行動や繁殖方法など真実に迫る研究が進められているという。とはいえ、「もう1回恐竜を生み出すことは今のところできません。生み出したとしても定着するかはまた別の話で、一度絶滅したものを再生するのは難しい」という話からも、まだまだ奥深い恐竜研究の世界が垣間見える。
「今、福井県出身の恐竜の研究者は僕しかいません。福井から新しい人が出てきてくれたら嬉しいですね」と、故郷から才能が発掘されることに期待を寄せた。
小林快次
こばやし・よしつぐ 1971年、福井県福井市生まれ。高志高校を卒業後、横浜国立大学に進学。95年にワイオミング大学地質学地球物理学科を飛び級・主席で卒業。2004年にサザンメソジスト大学で、日本人初の恐竜学の博士号を取得。デイノケイルスの発掘に続き、カムイサウルスやヤマトサウルス など新種発見にも携わる。2000年から約5年間、福井県立恐竜博物館に勤務