地元には名店がある。長年人々に愛される名店がある。人が惹きつけ、味が惹きつけ、歴史が惹きつける。それが名店の味。教えたくはないけど教えたい味。
どこにもない川魚の味 | 魚菜園

鰻、鯰、鮒、鯉、ウグイ。海の魚を提供する店は数多くあれど、川魚を中心に提供する店はそれほど多くない。それを目当てに東京からも訪れるほど、決して目立つ場所にはないけれど、半世紀を超えてなお人気であり続ける。
勝山市出身の松村武夫さんは東京で板前の修業をした後、福井に戻ってきた。趣味の渓流釣りに出掛けた際、別の友人から「刺身にできるのでは?」との一声が、今の店を形作るものとなった。川魚は海魚と違い、生きていないと鮮度が保たれない。かつきれいな水の中で育たった魚でないと味に出てしまう。だからこそ、素材の鮮度と味を生かすための店舗条件は厳しかった。
また火鉢もこの店にとっては大事なもの。炭火焼きをするための火鉢は東京の職人に作ってもらった特注品なのだ。よく川魚がクローズアップされるが、本質は鰻。武夫さんは東京の老舗鰻店で修行を重ね、開店時にわけてもらったタレを今もつぎ足しながら使い続けている。二代目の次男・知晴さんもまた父と同じ店で修行し、その味を今も守り続けている。
魚菜園(ぎょさいえん)
【住所】福井県福井市順化1-18-8 開明ビル1F
【電話】0776-23-3830
【営業時間】17:00〜深夜2:00(日曜・祝日は21:00まで)
【定休日】無休
【席数】16席
【駐車場】なし
あの味発祥の店 | 豆亭
夕暮れ時が似合う線路沿いの小さな店、軒先にポツリと点る灯りに胸を掴まれ、思わず戸に手を掛ける。職人肌の店主の肴で日本酒をちびりちびりやりながら、時折店の背後を走る電車のゴトンゴトンという音を聴き、ゆっくりと夜が更けていく。
富山の黒部生まれの店主は、中学生の時に連れて行ってもらった寿司屋で衝撃を受けた。威勢のいい職人、香ばしい海苔の香り。こんな世界に身を置きたいと寿司職人を志し、叔父のつてを頼って福井で修業。その後腕一本で全国を渡り歩き、再びこの町へ戻る。「恩のある寿司屋の近くで寿司屋はできない、夜遅くまで飲んでもらえる居酒屋を」と40年前に開いたのがこの店だ。小さい店だから『豆亭』。このサイズだからこそ伝わる温度感がある。
長芋をすり下ろしてお好み焼きのように焼いた「ぴんぴん焼き」は、今や全国の居酒屋メニューだが、実は元祖はここ。滋養強壮に優れた長芋で活力を、というネーミングも効いている。
もう一つ、この店に来たら必ず食すべきは「おでん」。店主自身が納得できる味に仕上がるまで3年も試行錯誤したという、職人らしいこだわりが詰まった逸品だ。「夏場は本当に大変なんだけど、毎回おでんを頼んでくれる人がいるからね」店主の変わらぬ丁寧な一皿を楽しみに通う常連が途切れない。
豆亭
【住所】福井県鯖江市水落町3-8-6
【電話】0778-52-8907
【営業時間】17:00〜深夜12:00
【定休日】日曜
【席数】14席
【駐車場】10台
山里の静寂もごちそう | 藪椿
福井市と鯖江市を結ぶ交通の要所として、古くから多くの人が行き来した戸口坂。バイパストンネルができたことで旧道は閉鎖され、山のふもとの集落は行き止まりの町になった。平穏で静かな日常が流れるこの場所で生まれ育った『藪椿』の店主・玉村さんは約40年間、名古屋で洋食のシェフを勤めあげた後、空き家だった実家をそば屋に改装。築200年を超す古民家の庭先には鶏が走り回り、古き良き日本の面影を思い起こさせてくれる。
そんな趣ある空間で味わえるのは、店主が祖母との思い出の味を再現した、昔ながらの田舎そば。昔ながらの石臼で甘皮ごと挽いたそばは栄養素を多く含み、そば本来の力強い風味を楽しませてくれる。のどごしではなく“かみしめるそば”を追求した朴訥な味わいは、料理ひと筋に精進してきた店主の生き様そのもの。昼間1時間だけ、平日ならほぼ30食限定という美味を求めて、県内外から連日多くのそば通が足を運ぶのも頷ける。
丁寧に打ったそばも、鶏たちからいただいた卵も、そして時の流れが止まったような空間も。わざわざ車を走らせて出向いてでも味わいたい素朴なおもてなしがこの店にはある。美味しい、とは味覚だけでなく五感で味わうものだと再確認できる贅沢なひと時を楽しみに、足を運んでほしい。
そば玄 藪椿(やぶつばき)
【住所】福井県福井市西大味町27-33
【電話】0776-41-2114
【営業時間】11:00〜14:00(土日祝は17:00まで)
【定休日】火曜日(祝日の場合営業)
【席数】36席
【駐車場】10台
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地元には名店がある。長年人々に愛される名店がある。人が惹きつけ、味が惹きつけ、歴史が惹きつける。それが名店の味。教えたくはないけど教えたい味。
癖になる香ばしさ | なごとん
暖簾をくぐると、店いっぱいに広がる味噌の焼けた香り。店名そのままの看板メニュー「なごとん」=「名古屋とんちゃん」の香ばしい匂いだ。
この道40年、小手を鳴らしながら味噌味のとんちゃんを作り続ける店主の竹内さんは愛知県出身。血気盛んだった若き日の竹内さんを見かねた、行きつけの飲食店の主人が福井駅前に先代が出した新店で働くことを勧めたのが始まりだった。開店当時は6坪の店に20人強が押し合いながら座り、立ち飲みする人がいるほどの人気ぶり。その味を正確に受け継ぐため、先代が残した味噌の割合を守りつつ、焼き手としての技も磨き続けた。「先代が亡くなった後、自信を持てるまで一旦駅前から離れて店を出したんです」と話す店主の言葉からも、受け継いだ逸品にかけるこだわりと愛情が伝わってくる。
シンプルながら、一度出会うとなぜかまた食べたくなる味。本当の美味は意外と近くにあるのかもしれない。
なごとん
【住所】福井県福井市中央1-21-8
【電話】0776-23-1590
【営業時間】17:00~24:00(日曜は22:00まで))
【定休日】火曜日
【席数】12席
【駐車場】なし
こだわった牛すじ丼 | 太郎
その場所が地元の人に愛されているかどうかは、その店が漂わせる空気や、看板メニューがあるかでわかる。「内職のように始めた」たこ焼き屋からはじまり、うどん、お好み焼き、一品料理と、客のリクエストで増えていったメニュー。それを形にして満足させるのも店の腕。「この店にはカツもカレーもないけれど、『カツカレーが食べたい』って(笑)」。嫌な顔一つしないで提供する度量の深さもまた愛される秘訣。
「気になった料理は見よう見まねで作ってみる」、と作り出して今では名物にもなったのが「牛すじ煮」。毎日2㎏の牛すじを仕込み、一晩おいて余計な脂分を落としてあっさりと仕上げ、時には4分の1を捨てることもあるくらい、と、とことんやり抜く。その見えないところの手間暇が老若男女問わず人気を呼び、「丼ぶりにしたい」のリクエストもあり、「牛すじ丼」は定番メニューとなった。
来るたびに新しいメニューが並ぶ。そんな柔軟性もまた愛される秘訣。
お食事処 太郎
【住所】福井県小浜市小浜香取21
【電話】0770-53-1467
【営業時間】11:30~22:00頃
【定休日】不定休
【席数】20席
【駐車場】5台
【HP】あり
花街の記憶残るカウンター | 与志川
えちぜん鉄道勝山駅を出て、勝山橋から九頭竜川を渡った左手に広がるのは湊町として隆盛を極めた「本町」エリア。舟運が盛んだった江戸から明治にかけての時代、勝山は三國まで九頭竜川一本でつながり、多くの人々や物資が行き来していた。
とりわけ尊光寺の手前に伸びる河原町通りは勝山唯一の花街として当時大変な賑わいをみせていて、「百人町」と呼ばれる一画もあったほど。至る所に芸妓が置かれていたというから、羽二重に代表される勝山の繊維産業の隆盛と共に華やいでいたのだろう。
そんな河原町通りにその頃の風情を今に伝える一軒の名店がある。「大清水」の湧き水からも近く、簾や飾り窓など趣ある佇まいの『割烹 すし 与志川』は、昭和初期に仕出し料理店として開業。花街の“貸席(部屋貸しの店)”として料理を提供してきた。
戦後、初代が寿司をメニューに加え、海に面していない勝山の街には珍しいお店となった。
店内は、カウンターの目の前に座布団が並べられた座敷とこたつ席という一風変わった造りではあるが、靴を脱ぐことで自然と心が落ち着くようだ。
メニューを開けば、寿司の他に「テキ鉄板焼」「カツ丼」などの洋食が並ぶ。聞けば、2代目紘一さんは片町のレストラン『CR』でシェフとして経験を積んだ料理人だ。「初代である父親から、田舎の店は何でもできないといけないと教えられました」。山に囲まれた勝山という土地で本格的な握り寿司とステーキを提供できる店は、たしかに唯一無二の存在に違いない。
移りゆく時代の中で、店主のこだわりやお店としての個性を忘れず、淡々と営み続けてきた『割烹 すし 与志川』。街を行き交う人々の胃袋をしっかりと満たし「生きる碑」として、今日も勝山の片隅で暖簾を掲げている。
割烹 すし 与志川(よしかわ)
【住所】福井県勝山市本町2-6-12
【電話】0779-88-0438
【営業時間】11:00~13:30、17:00~21:00
【定休日】日曜
【席数】36席
【駐車場】4台
辛味そばは“年越し”の特別な味 | 米太
小浜には「節分そば」なる食べ物がある。これは小浜市全域というより、八幡神社周辺で呼ばれている食べ物。古来では立春が一年の始まりであり、その前日の節分の日は、いわゆる大晦日に当たる。この日、周辺の人々は八幡神社に参拝し、年越しそばを食べるのが習慣になっていたという。ただ、全国に浸透した年越しそばは12月31日のもの。それとの混同を避けるため、いつしか節分そば、と呼ぶようになったそうだ。
さてこの節分そば、辛味大根の汁のみを使うそばなのだが、地元での本来の食べ方は、温かい辛味そばなのだとか。辛味大根の香りが湯気とともに立ち上がり、一気にすするとむせるけれども、ゆっくり食べていくと辛味がまろやかになる。今でも注文を受ければ温かい辛味そばを提供してくれる。
ちなみに小浜はれっきとしたうどん文化。こちらの店も「米太のうどん」としての知名度のほうが高い。が、年越しだけはそばをいただく。この地域の人にとってはそばは特別な、“ハレ”の食べ物なのだろう。
米太
【住所】福井県小浜市小浜住吉9
【電話】0770-52-0711
【営業時間】11:00〜19:00
【定休日】水曜
【席数】24席
【駐車場】
【HP】あり
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