日々URALA(ウララ)

月刊ウララ9月号特集 最高のローカルを往く『北陸温泉宿の旅』から厳選宿をご紹介

温泉は癒し、である。温泉宿は別天地、である。喧噪もしがらみも何もかもを捨てて湯に身を浸す。穿った気持ちは染み出して、心地よい思いが染み込んでくる。温泉は気持ちを切り替える場所。自分本来の心を取り戻す場所。



トロッコ電車で行く渓流の奥に佇む隠れ湯宿。

黒部峡谷
黒薙温泉旅館
くろなぎおんせん
◉富山県黒部市・黒薙温泉

河原に隣接する混浴大露天風呂「源泉(いずみ)」。中央に大岩を抱き天然石に囲まれたダイナミックな大露天風呂は28帖相当もの広さがある。厳しい自然環境に配慮し、安全確保のため入浴は21時まで。一部、女性専用となる時間帯がある。

深山幽谷に立ち昇る、湯けむりを目指して進む。

まず知っておくべきは、ここが、トロッコ電車に乗り、徒歩でしか辿り着くことができない温泉であるということ。深い山あいにありながら、17世紀頃には発見されており、慶応4年(1868年)に開湯したという長い歴史をもつ。江戸末期から多くの人が湯あみを楽しんできた「黒薙温泉」は、今も、野趣あふれる姿で訪れる人を迎え入れている。自然そのものがホスピタリティになっているから、五感が研ぎ澄まされ、黒薙川の水音や鳥のさえずり、ヒグラシの声、木々の香りにも敏感になる。今はこうした時間こそが贅沢と言えるのかもしれない。余計なものは何もない環境だからこそ、楽しみなのが食事。雪解け水が流れる清冽な川で育った岩魚やすぐ近くで採れる山菜、扇状地の伏流水で育ったコシヒカリなど、水がおいしい黒部はとびきりの食材も豊富だ。それらを生かした素朴な家庭料理が、すべてとしっくり相まって余計にありがたい。建物は100年余り前に建てられ、改装を重ねてきたものの、柱や躯体そのものは当時のまま。冬季は雪深く交通手段が絶たれるため、4月下旬から11月下旬までの期間営業。旅館までは山道のため、日の入り時刻も気にしながら早めの出発を。

黒薙駅から階段の多い山道を約20分、600m歩いた先に建つ旅館。
建物は明治時代のもの。自然とともにある佇まいが魅力だ。日々の喧騒から離れ、ゆっくりとした“黒薙時間”を。
旅館下流側、高台から黒薙川を見下ろす「天女の湯」は女性専用露天風呂。男性専用の時間帯あり。
心がほっこりする、この土地ならではの家庭料理。
春から夏は川の水量が多く轟音に近い音がするため、気になる方は山側のお部屋を。


◉温泉 Information
源泉名:黒薙温泉
泉質:弱アルカリ性単純泉(低張性高温泉)
泉温:98~105℃
湯量:2,000ℓ/分

◉宿Information
【住所】富山県黒部市宇奈月町黒薙
【電話】0765-62-1802
【料金】1万600円~(1泊2食付、1室2名利用の場合の1名あたりの料金)
【時間】チェックイン/14:00~16:00、チェックアウト/10:00
【HP】あり

◉ACCESS
電車:北陸新幹線「黒部宇奈月温泉駅」下車。隣りの富山地方鉄道「新黒部駅」から「宇奈月温泉駅」下車。黒部峡谷鉄道「宇奈月駅」からトロッコ電車で約25分。山道を約20分徒歩。※トロッコ電車の営業期間は4月下旬~11月下旬のため冬季休館。
車:北陸自動車道「黒部IC」より宇奈月温泉方面へ約30分。黒部峡谷鉄道「宇奈月駅」からは上記の通り。

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また訪れたくなる風情と非日常感。

辰口温泉
まつさき
◉石川県能美市・辰口温泉

新館の最上階にある展望露天風呂「木犀」。ほかに岩風呂の「玉竜」と家族風呂の「雷鳥」があり、いずれも庭園を望むことができる。晴れた日には白山連峰も見られ、絶好のビュースポットに

金沢からほど近くに佇む、自然に囲まれた恵みの湯。

夏は池に咲く睡蓮、冬は雪化粧の中に渡り鳥。広大な松泉湖の上に架かる渡り廊下を進むうちに、非日常へと誘われていく。加賀温泉郷や能登の温泉とは違う趣で、金沢の奥座敷として愛されてきた辰口温泉にあるこの老舗旅館は、天保7年の創業以来多くの人を癒し、明治時代には文豪の泉鏡花にも愛された由緒ある宿だ。

部屋は全て数寄屋造りの凛とした佇まい。目前に松泉湖が展開する「瑞雲」、安土桃山庭園を眺められる「松寿庵」と、どの部屋からも庭園を楽しめ、木々の緑陰が旅の疲れを忘れさせてくれる。特筆すべきは新館「鳳凰」。全ての部屋に源泉露天風呂と内風呂が付き、専用の月見庭園もあるので、一献傾けながら月見酒というのも粋なもの。

こんこんと湧き出る源泉は、肌にやさしい弱アルカリ性。安土桃山庭園に面した大浴場には加温しない源泉かけ流しの檜風呂があり、少しぬるめなので疲労回復や酔い覚ましに最適という。檜風呂以外の湯は適温に加温されているので、ゆったりと満喫を。料理は金沢の旬味を盛り込んだ懐石料理。料理長自らが早朝の市場に足を運び、吟味した新鮮な食材が品良く供される。滞在するほどに心惹かれるおもてなしを感じられる一軒だ。

松泉湖に浮かぶ松島に建つ茶室「無量庵」。この庵を含む大きな松泉湖庭園は5000坪を有し、季節の野鳥が訪れて四季を告げてくれる
白山連峰を展望する貸切露天風呂「雷鳥」。
新館「鳳凰」の部屋で気兼ねなく寛ぎを。
新館・本館それぞれに厨房があり、二人の料理長が腕をふるう懐石料理がいただける。
新館「鳳凰」の露天風呂は、夕に夜にゆるりと楽しみたい。
夏には松泉湖を蓮の花が彩る。冬には白鷺が雪の上に佇む姿も


◉温泉 Information
源泉名:新辰口温泉 11号源泉
泉質:含硫黄-ナトリウム-硫酸塩・塩化物泉(弱アルカリ性低張性温泉)
泉温:36.5℃
湯量:210ℓ/分

◉宿Information
【住所】石川県能美市辰口町3-1
【電話】0761-51-3111
【料金】2万3,760円~(1泊2食付、1室2名利用の場合の1名あたりの料金)
【時間】チェックイン/13:00~、チェックアウト/11:00
【HP】あり

◉ACCESS
電車:JR金沢駅から北陸本線に乗り換え約10分、松任駅下車。無料送迎バスに乗り約15分(要事前電話予約)
車:北陸自動車道美川ICで降り、県道105号線を経由して県道22号線を南進約20分

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心の琴線に触れる、そよぐ湖面と静寂。

虹岳島荘
こがしまそう
◉福井県若狭町・虹岳島温泉

部屋は全部で26。同じレイアウトの部屋が2つとなく、来るたびに違う部屋を楽しむかと思いきや、リピーターそれぞれに好みの部屋があるそうで、同じ部屋ばかりを予約するとか

日本らしい空間の中で心を和ませる、静寂という贅沢。

国道27号線から梅街道へ、そしてさらに脇道へ。行き止まりには三方五湖の一つ、水月湖。耳を澄ますと、聞こえてくるのは風が揺らす湖面の波音、遠くで聞こえる鳥のさえずり。それ以上はない。
静寂という贅沢。都会の喧騒に囲まれながら住む人たちは、この静寂を心の奥底から求めている。だからこそ、そんな空気の中に身を置きたいと、秘湯中の秘湯にやってくる人は全国から絶えない。
約200年前に豪農が暮らしていたという合掌造りの古民家を移築した本館は、訪れる人々を大きく包み、そして癒す。昔ながらの家というのは、日本人には郷愁を誘い、外国人からは日本らしいと歓喜の声を上げさせる。湖面に沿うように移築された全室からは水月湖を望むことができる。ソファに深く腰掛け、たゆたう水面をただ眺める。時間がゆっくり流れるような錯覚に陥り、大きく息を吸い込みたくなる。
様々なアクティビティは用意されているが、敢えて強調しない。何もしないことの方が贅沢に感じるはずだから。さらに働く人々がアットホームでこの宿を愛している。宿が好きな人が宿を作る。心和む静寂の空間があるからこそ、この宿は全国の人々に愛されている。

夏季限定でオープンする温泉プール。目の前には水月湖。ここで少人数のパーティーを行なうことも可能で、プライベートな空間を演出
地下にある露天風呂。水月湖が目の前に広がる絶景スポット。
合掌造りならではの梁をむき出しにした廊下。壁も土壁にし、和の風合いを醸し出している。
若狭湾の海の幸、そして山の幸をふんだんに盛り込んだボリューム満点の会席料理が並ぶ。かにやふぐ、あわび、うなぎ料理のコースも人気。
プールの奥にあるのはまさに“秘密の部屋”。宿に泊まりながら仕事をする人用に設けられたスペース


◉温泉 Information
源泉名:虹岳島温泉
泉質:単純弱放射能冷鉱泉
泉温:16.2℃
湯量:測定不能

◉宿Information
【住所】福井県三方上中郡若狭町気山334-1-8
【電話】0770-45-0255
【料金】1泊2食1万4,190円~(1室2名利用の場合の1人あたり)
【時間】チェックイン/15:00~、チェックアウト/10:00
【HP】あり

◉ACCESS
電車:JR敦賀駅からJR小浜線に乗り換え気山駅下車。タクシーで5分。無料送迎あり(事前予約が必要)
車:国道27号線気山交差点を三方五湖方面に曲がる。踏切を越えて最初の信号を左折、600メートルほどを右折し道なりに進む

月刊ウララ9月号(582円+税)の巻頭は『ふたたび巡る、越前・若狭』より『麒麟がくる』のゆかりの地をご紹介。また今、気になる場所・ヒト・コトをご紹介する『What’s Hot』もお見逃しなく。書店、コンビニ、通信販売で好評発売中です。ぜひご覧ください。



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