2025/09/04

イギリスのロンドン国際ファンタスティック映画祭のオープニングを飾り、「クレイジーを超えたクレイジスト」と絶賛された『THE KILLER GOLDFISH』。9つの海外映画祭を経て日本で各地で公開され、福井でも8月29日(金)からテアトルサンクで上映が始まった。初日の舞台挨拶に来福した堤幸彦監督、主演を務めた福井県出身の俳優・岡エリカさんに、作品について話を伺った。
――『THE KILLER GOLDFISH』は堤幸彦、本広克行、佐藤祐市の3人の映画監督が立ち上げたプロジェクト「SUPER SAPIENSS」の長編第一作です。従来の映画制作とは異なるアプローチで作品を生み出していることでも注目されていますが、その結成にはどんな経緯があったのでしょうか?
堤:森谷雄プロデューサーが主催した愛知県豊橋市の映画祭で、私たちおじさん監督と森谷さんでオンラインイベントをしました。そのとき、「現状に満足しているか」という話になったのですが、全員が口をそろえて「どうですかね」と。本当に撮りたいものを撮れているのかと考えると、まだまだこれからなんじゃないかという認識で一致し「SUPER SAPIENSS」を立ち上げました。
このプロジェクトはNFTなどを通じて多くの人に参加してもらい、誰の助けも借りずに自主制作ができないか、という思いから始まっています。上映も新しい興行の形に挑戦し、各地のミニシアターなどと連携して息の長い上映を目指しています。本広さんは縦型動画で『かしこきもの』を発表、佐藤さんも作品を製作中で、本作はこの「SUPER SAPIENSS」というムーブメントをこれからも続けていくための始まりの一歩だと捉えています。

――本作は「ネアンデルタール人によるホモサピエンスへの復讐」、「金魚による殺人事件」、「転生」という3つのテーマが絡み合っていますが、その着想はどこから得たのでしょうか。
堤:始まりは「サピエンス全史」という本でした。ホモサピエンスの染色体にはネアンデルタール人遺伝子が含まれているという学説を知り、滅びた近接種が私たちに対して「君たちは賢いけれど、図に乗り過ぎていないか」という警告を発しているのではないか、と想像しました。
金魚や犬、蚕などは、突然変異を利用され、人間のいいようにDNAを改造されてきた動物たちですよね。そうした背景を踏まえると、滅びた旧人類の集合的な精神がホモサピエンスへの警告として、人類によってねじ曲げられた存在を武器として使うのではないか――。そんな映画的な発想が、この物語のベースになっています。

――作品の中でも金魚の描写や演出は目を引くものでした。演出に取り入れたアニメーションには、多摩美大の学生を起用されたそうですね。主演の岡さんは演技はほぼ初めてで、バディ役の髙橋佳成さんや脚本の萱野孝幸さんも地方で活動されており、新しい才能を発掘したという点でも挑戦が感じられます。
堤:僕は常にリニューアルする気持ちで、毎回デビュー作のつもりで映画を撮っています。慣れ親しんだやり方を続けても、同じパッケージにしかならない。だったら、無名でも一緒にやったことのない人と組んだ方が面白いと考えました。キャストだけでなく、アニメーションを任せた学生はSNSで見つけた人ですし、音楽も脚本をAIに読ませて生成したものをアレンジするなど、これまでにやったことのない試みを詰め込みました。映画制作には、もっと自由なトライアルがあっていいと思っていますし、その先鞭をつけたいという思いもありました。
今回、テクニカルチームはすべて名古屋で、僕が映画を撮り始めた頃のパワーを感じさせる方が集まり、東京ではなかなか味わえない雰囲気の中で撮影ができたのも面白かったですね。
――環栄李花役を演じた岡エリカさんは、2000人が応募したオーディションから選ばれたそうですね。岡さんを起用した決め手は何だったのでしょうか?
堤:岡さんは声楽をされていて、全身を使って表現することができる方。画面越しでも人の心を射抜くような眼差しと、揺るがない芯の強さが際立っていました。かなりヘンテコなキャラクターなので、単にかわいい、キレイではだけでは駄目なんですよね。隠し持った何かが内面にあるのが透けて見えたので、もうこの人しかいないと思いました。確かに演技は未知数でしたが、それゆえに「この人ならどんな挑戦にも応えてくれる」という期待感を抱きました。
――それまで岡さんは演技はほぼ未経験だったそうですが、『THE KILLER GOLDFISH』のオーディションを受けたきっかけは何だったのでしょうか。
岡:当時は音大で声楽を学んでいて、自分には芝居なんてまったく縁がないと思っていました。そんなとき、たまたま撮影現場に加わる機会があって、セリフの読み合わせや演技に触れたんです。思っていた以上に楽しくて、少しずつ芝居に興味を持ち始めました。そんなときに、友達からこの作品のオーディションに誘われ、トライしてみようと思いました。

――撮影中はどんな気持ちで演技に向き合いましたか?
岡:ひたすら台本を読み込んで、自分なりに栄李花のキャラクターやシーンが持つ意味を分析して現場に持っていき、監督や共演者の方と話し合いながら作り上げていきました。右も左も分からない状態からのスタートで、必死に付いていくことしかできませんでしたが、プレッシャーや不安よりも喜びのほうが大きく、カメラの前で演技をすることが楽しくて仕方がなかったですね。
演技を通してキャラクターがシーンの中で生きていると感じられる瞬間が面白くて、演じるごとに「私はこの道で生きていきたい」という思いが強くなっていきました。
――岡さんが演じた環栄李花というキャラクターの魅力を教えてください。
岡:クセの強い、ちょっとぶっ飛んだキャラクターで、無機質で冷たい印象を持たれると思います。でも実は、誰にも言えない悩みを抱えた、人間らしい一面もあるんです。私はそのギャップにすごく惹かれ、演じながら愛おしさを感じました。映画を見てくださった方に、変わり者なだけではない、栄李花の多面的な魅力が伝わったらうれしいですね。
――堤監督は岡さんの演技や俳優としての魅力をどう感じましたか?
堤:僕は、動きなどの具体的な段取りは伝えますが、演技の説明はほとんどしません。台本の中にすべて反映されていますし、表情の核となる部分は、演じる人の台本の理解や、心の価値感が伴わなければ成立しないと思うからです。
岡さんは環栄李花を演じるなかで、「自分のことを理解してくれない人がいても、言うべきことは言わなきゃ」という静かな強さを自然に漂わせていました。その姿に、役者としての理解度の高さを感じました。どんな場面でも物事に落ち着いて物事に向き合っていて、堂々とした強さがある。これ、福井の女性の特徴なんでしょうか(笑)。

――イギリスのロンドン国際ファンタスティック映画祭を皮切りに、イタリア、スウェーデン、ポルトガルなど7か国の映画祭で上映され、海外で高い評価を得られたそうですね。
堤:すでに映画を見ていただいた人には分かると思いますが、とんでもないでしょう?(笑)
この映画は、日本だからといって小さくまとめる必要はないと証明したくて、最初から海外を意識して球を投げたところもあります。それだけに、ロンドンで「クレイジーの上をゆくクレイジスト」という最上級の誉め言葉をいただけたときは、この挑戦は間違っていなかったと思えました。
ただ、僕自身はポップカルチャーを背負っているつもりはなく、常に「自分にとって新しいこと」を追求しているだけなんです。やりたい企画を立ち上げ、実験を繰り返し、これまで組んだことのない人たちと一緒に仕事をしていくなかで、『THE KILLER GOLDFISH』の世界観と周囲の波長がぴったりと合っていったのかなと感じています。
――最後に、お二人から福井の観客へメッセージをお願いします。
岡:自分の役者人生の原点となる作品を、地元の福井で上映できることに感謝の気持ちでいっぱいです。一度見たら忘れられない、クセになる映画だと思っています。私自身も共犯者の1人として、監督やキャスト、スタッフの皆さんと熱い思いを込めて作り上げたので、皆さんにこの熱量と面白さが届き、何かが残ってくれたらうれしいです。
堤:とにかく見たことのないタイプの映画だと、覚悟を持ってお越しいただければと思います。70歳目前のおじさんが老体に鞭打って作ったわりには、なかなか面白い仕上がりになっているんじゃないかと(笑)。世界からクレイジーだと評される映画なので、「映画ってこんなに自由でいいのか」と感じながら楽しんでいただきたいですね。
「SUPER SAPIENSS」というプロジェクトを信じ、支持していただけるメンバーを、私たちは“共犯者”と呼んでいます。この活動が日本映画の現状にくさびを打つアクションとなり、代を継いでひとつのカルチャーを生み出せたら。福井でもそうしたコネクションを作りたいと思っているので、ぜひ共犯者としてもご協力いただきたいと思います。


公開中(9/18(木)まで)
【上映会場】テアトルサンク(福井県福井市中央1-8-17)
https://www.theatrecinq.jp/schedule/
【STORY】2022年、日本。金魚による殺人事件が多発していた。公安特設課超常事件想定班(マル超)の環栄李花は、ベテラン刑事の山中伝蔵、東大卒若手ホープの立花雪根とチームを組み捜査に乗り出す。金魚の弾丸、人体の消失、神代の遺跡…. 栄李花たちは様々な「異常」との接触を重ね、やがて「ネアンデルタール人の怒り」というキーワードへと辿り着くのだった。
【CAST】岡エリカ、髙橋佳成、池浪玄八、伊藤さゆり、菊千代、伊藤陽佑、渡邉泰良、藤嶋花音、花柳のぞみ、比佐 仁、児玉純一、窪塚愛流、瀬戸琴楓、春本ヒロ、前田隆成、川久保拓司、吉岡睦雄、伊藤慶徳、つじかりん、梶 裕貴(声の出演)、窪塚洋介、佐藤二朗
【STAFF】監督 ユキヒコツツミ、脚本 萱野孝幸、主題歌 Alisa『Hourglass』、原作 SUPER SAPIENSS、プロデューサー 森谷 雄
【配給】SUPER SAPIENSS(https://supersapienss.com/)
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