タンゴの革命家、ピアソラ生誕100年記念コンサートを開催。バンドネオン奏者、小松亮太さんインタビュー。

2021/02/27

世の中の人が聴いているピアソラの80%以上が、クラシックかジャズの人が演奏しているもの。

――福井公演の後も、各地でピアソラ生誕100年記念コンサートを開きますが、今年開かれるコンサートはピアソラ、そしてタンゴを正しく理解してもらう意味もあるということですね。

ピアソラがすごい人だっていうのは彼の曲を聴いていたらわかるんですよね。でも、「なんでこういう曲を作ったのか?」あるいは、「なぜこういう曲が生まれたのか?」という作品の裏にある背景や思いは、ピアソラの先輩の曲を聴かないと何にもわからない。革命家というのは確かにかっこいいけれど、ところが革命する前の保守、革命する前の体制側がくだらなかったのかというと、実は全然そうでもないんです。体制側が素晴らしくて、本当にすごい世界で固まっていたからこそピアソラは、「そこをもう少しこうした方がいいんじゃないんですか?」ということをやったわけで、特に1940年代、1950年代という時代は、この両方がバランス良く拮抗していて、そこがおもしろかったんですよ。

――昨年12月にコンピレーション・アルバム『ピアソラの芸術』をリリースしましたが、この作品に込めた想いを教えてください。

世の中の人が聴いているピアソラの80%以上が、クラシックかジャズの人が演奏しているものなんです。事実、ピアソラが書いた楽譜が世の中に出回り始めていて、クラシックの人もジャズの人も、それをもって「これがタンゴですよ」という顔でピアソラの作品を演奏をしているんです。でも、我々タンゴ・ミュージシャンからするとそれはタンゴではないんです。というのは一つからくりがあって、ピアソラは自分の楽団をもっていて、世の中に出回っている楽譜は、彼が身内のために書いた楽譜ばかり。クラシックやジャズの人が使うなんてことはまったく想定しないで書いたものなんです。クラシックやジャズの人たちは僕たちタンゴ・ミュージシャンから見ると、タンゴのバックボーンを何も知らない。それはピアソラの背後にあるものが何なのかを知らないのと同じことで、これは僕の想像ですが「俺たちは楽譜さえあればピアソラを演奏できるんだ。だってピアソラは楽譜を残しているじゃないか」って、そう思っているんじゃないのかな?アストル・ピアソラという人は確かにタンゴに革命を起こした人かもしれないけれど、彼の作る音楽の根っこにはタンゴがあって、それを表現するにはやはり「タンゴ・ミュージシャンが頑張りましょうよ」と、当たり前のことを言っているだけなんですよ。

2020.12.09 ALBUM
『ピアソラの芸術』
SICC-40109/1760円(税込)

――福井公演は五重奏団でのコンサートになりますが、共にステージにあがる演奏家の方々について教えてください。

ヴァイオリンの近藤久美子さんや、コントラバスの田中伸司さんはタンゴの歴史に直接かかわったことのある方です。本場アルゼンチンのタンゴの歴史は140年と言われていて、日本はタンゴの歴史が90年くらいあるんです。その90年の歴史の一番最後にかろうじて立っているのが僕です。18~19歳の時からダンスホールや酒場で好きでもないタンゴの曲をたくさん弾かされて、「なんでこのおじいさんたちはこんな音楽でよろこんでいるんだろう」って当時は思ってました。ところが否応なしにずーっと弾いていると、時間はかかるんですけど意味がわかってくるんですよ。結局、ダンスホールとか酒場みたいなところで、どうしようもなく古い曲を毎日弾いていた人たちが、いつのまにかリズム感とかフィーリングとか、そういうものが身についてきて、ピアソラの楽譜を見たときにそれをどう演奏すればいいのか本当にわかるんですよ。ヴァイオリンの近藤久美子さんは、自分の親よりも年上のおじいちゃんのヴァイオリン奏者から違う違うって毎日しごかれていたそうで、その積み重ねがどれだけの財産になったことか。ピアノの鈴木厚志さんもギターの鬼怒無月さんも素晴らしい演奏家なので、タンゴをよく知る五重奏団だからこそ表現できる、クラシックでもなければジャズでもない“タンゴ”をぜひ楽しんでいただきたいと思います。福井公演では石川県出身のバンドネオン奏者、生水敬一朗さんをゲストに迎えます。彼との共演は久しぶりなのでこちらも楽しみにしています。

『ブエノスアイレスの夏』(2014年)

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#インタビュー#音楽#コンサート

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